研究課題/領域番号 |
22K07546
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
荒若 繁樹 大阪医科薬科大学, 医学部, 教授 (00344789)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / 病態生化学 / パーキンソン病 / 認知症 / タウ / α-シヌクレイン / 細胞外放出 |
研究実績の概要 |
本研究は、認知症を伴うパーキンソン病におけるタウとα-シヌクレインの細胞内蓄積機構を明らかにするため、タウとα-シヌクレイン分子に共通する細胞外放出経路およびプリオン様伝播への寄与の解明を目的としている。2022年度は、1)タウのABCトランスポーター依存性放出、2)タウのABCトランスポーター依存性放出の細胞内局在、3)タウのABCトランスポーター依存性放出の調節メカニズムを解析することを計画した。それぞれの研究計画について、次の結果を得た。1)に関連して、マウス初代大脳皮質神経細胞をABCトランスポーター阻害薬プロベネシドで処理するとα-シヌクレインと同様にタウの細胞外放出が抑制されることを見出した。2)については、初代神経細胞を小胞の膜融合を担うSNARE複合体の形成を阻害するテタヌス毒素で処理するとα-シヌクレインと同様にタウの細胞外放出が抑制されることを見出した。3)については、α-シヌクレインの細胞外放出はオートファジーを誘導刺激するラパマイシンによって亢進することを認めた。初代神経細胞をラパマイシンで処理するとタウの細胞外放出も同じように亢進することが示された。これらの所見は、神経細胞において、α-シヌクレインとタウは同じ機構によって細胞外に放出されること、その放出機構としてオートファジーが関与していることを示唆していた。2022年度の研究成果は、オートファジーを介したα-シヌクレインの細胞外放出機構に焦点をあてて、2つの国際学会(Neuroscience 2022. San Diego, USA; AD/PD2023. Gothenburg, Sweden Web発表)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、1)タウのABCトランスポーター依存性放出、2)タウのABCトランスポーター依存性放出の細胞内局在、3)タウのABCトランスポーター依存性放出の調節メカニズムの解析を計画した。それぞれ、マウス初代大脳皮質神経細胞をABCトランスポーター阻害薬プロベネシドで処理するとα-シヌクレインと同様にタウの細胞外放出が抑制されること、初代神経細胞を小胞の膜融合を担うSNARE複合体の形成を阻害するテタヌス毒素で処理するとα-シヌクレインと同様にタウの細胞外放出が抑制されること、α-シヌクレインとタウの細胞外放出はオートファジーを誘導刺激するラパマイシンによって亢進するといった結果を得た。薬理学的な実験から、α-シヌクレインとタウの細胞外放出におけるABCトランスポーターの関与を支持する所見は得られているが、ABCトランスポーターは多くのサブメンバーから構成されるため、未だ両分子の細胞外放出に関与するABCトランスポーターの同定には至っていない。しかし、α-シヌクレインとタウの細胞外放出経路として、オートファジーが関与している可能性を見出すことに成功した。オートファジーは不要な細胞内小器官やタンパク質を分解する機構として深く知られている。さらに、オートファジーはタンパク質の細胞外分泌機構として働くことを示す研究結果が蓄積されつつある。オートファジーは、α-シヌクレインとタウの細胞外放出を制御する重要なメカニズムである可能性が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度以降の研究として、1)タウの形質膜貫通性放出、エクソソーム依存性放出とABCトランスポーター依存性放出の相互調節メカニズム、2)ABCトランスポーター依存性放出のタウ細胞間伝播への影響(in vivo解析)を予定していた。タウの形質膜貫通性放出が報告されていたが、私たちは追試することができなかった。2022年度の研究結果を踏まえ、研究目的であるタウとα-シヌクレイン分子に共通する細胞外放出経路およびプリオン様伝播への寄与の解明に向けて、当初の研究計画を次のように修正する。2023年度は、1)神経細胞おけるオートファジーを介したα-シヌクレインとタウの細胞外放出の調節メカニズムの探索、2)α-シヌクレインとタウの細胞外放出に関与するオートファジー構造物の探索、3)オートファジーを介した細胞外放出機構とABCトランスポーターの関与の探索、4)α-シヌクレインとタウの細胞内蓄積に繋がるオートファジーによる分解と細胞外放出の相互関係の探索といった点について検討を行う。これらの検討は、マウス大脳皮質初代神経細胞とSH-SY5Y細胞を用いて行い、生化学的および免疫細胞組織学的に解析する。これらの実験から、α-シヌクレインとタウに共通する細胞外放出機構およびその調節メカニズムを明らかにする。次に、ABCトランスポーター依存性放出またはオートファジーを介した細胞外放出によるタウ細胞間伝播への影響(in vivo解析)について検討し、細胞外放出機構からみたタウとα-シヌクレイン分子のプリオン様伝播メカニズムの解明に繋げることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の購入は、計画に従い順調に行えた。しかし、2022年度の予算として残った金額は、購入を希望する物品(例:一次抗体など)の費用として不足していたため、2023年度に使用することにした。そのため、若干の余りが生じた。2023年度は、培養細胞を用いた実験を継続的に実施するため、試薬等の物品購入に使用する予定である。
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