研究課題/領域番号 |
22K07562
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
吉野 祐太 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (10646243)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | エクソソーム / 自閉症スペクトラム障害 / microRNA / アルツハイマー型認知症 / APP / マウス / うつ病 |
研究実績の概要 |
自閉症スペクトラム障害患者の血漿・神経由来エクソソーム内のmiR-20a-5pが上昇していることから、他の疾患でも同様に研究を行った。その結果、アルツハイマー型認知症でも同様に上昇しており(P = 0.036)、Dual-Luciferase assayの結果、配列特異的にAPP遺伝子発現を抑制的に調節していることがわかり、脳内の病態を反映した結果と考えた。アルツハイマー型認知症の結果に関しては現在、論文投稿中である。 pAAV vectorにprecursor-miR-20aをクローニングしたプラスミドをマウスの両側前頭様に投与し、3週間後に行動実験を行った結果、うつ状態を反映するテイルサスペンションテストでpAAV-pre-miR-20aを投与した群で有意に無働時間が減少し、抗うつ効果を示す知見が得られた。検証実験で確認された1.3-1.5倍過剰発現しているmiR-20a-5pが、様々な遺伝子発現を調節した結果、抗うつ効果が出現していると考えている。その中の一つとして、Irf1遺伝子をmiR-20a-5pが抑制的に調節している結果を得ており(過剰発現系:P = 0.033、Dual-Luciferase assay:P = 0.025)、Irf1が免疫系を活性化する遺伝子であることから、過剰となった免疫を抑えることが抗うつ効果に関与していると考えている。実際に、うつ病モデルとされるCSDSモデルを作成し、テイルサスペンションテストで無働時間が有意に伸びていることを確認した後にqPCRをした結果、CSDS群の海馬にて有意にmiR-20a-5p発現が上昇していた。これらうつ状態に関するデータを現在まとめており、論文投稿準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自閉症スペクトラム障害のエクソソームから研究を開始したが、様々な疾患でmiR-20a-5pが変化していることから、広く精神神経疾患に関与していると想定している。ヒト、マウスを用いたIn vivoの実験、cell lineを用いたIn vitroの実験からmiR-20a-5pが制御する遺伝子を複数同定することができた。更に、pAAV vectorを用いた実験で脳内におけるmiR-20aの作用機序の一部を解明することができた。昨年度、報告したように患者から抽出したエクソソームをマウスの末梢から投与しても脳内には到達していない結果であったため、当初想定していた手法では研究を進めることは困難であると判断した。そのため、pAAV vectorを脳内に投与している手法を用いて、患者由来のエクソソームも同様にマウス脳内に投与することを検討しており、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
従来法である超遠心法では不純物が入ること、またここまで使っていたカラム法ではどうしても濃度が薄いエクソソームとなっていたため、他のキットを使ってインタクト、かつある程度高濃度のエクソソームが抽出できることを確認した。様々な患者由来の血漿エクソソームをマウス脳内に投与し、まずは行動解析を行う予定である。 私はレカネマブ業務の統括をしており、研究として同意頂いた患者から血液、脳脊髄液を採取、保存している。脳脊髄液のエクソソームは脳内を反映すると想定されるため、血漿と同様にmiR-20a-5pの定量を行う予定である。ここまでmicroRNAのうち、miR-20a-5pのみに着目してきたが、同様に過去精神神経疾患で変化しているmicroRNAの解析も進めている。疾患を発病すること、またその病態がエピジェネティックな変化を引き起こすことで、他の疾患を発症しやすくなったり、治療反応性が変化すると想定している。例えば、うつ病を発症した患者はアルツハイマー型認知症を発症しやすくなることは多く報告されており、この機序としてmicroRNAをはじめとするエピジェネティックな変化が関与していると考える。分子生物学的な手法で明らかにしたここまでの変化を、実際の患者に返すために臨床・基礎実験の双方の視点から包括的に研究を進めていく方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に患者由来のエクソソームをマウス脳内に投与する予定であったが、予備実験が予定通りに進まず、2024年度に持ち越しとなったため。
|