研究課題/領域番号 |
22K07569
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
黒岩 真帆美 久留米大学, 医学部, 助教 (20585690)
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研究分担者 |
大西 克典 久留米大学, 医学部, 助教 (10626865)
西 昭徳 久留米大学, 医学部, 教授 (50228144)
首藤 隆秀 久留米大学, 医学部, 准教授 (70412541)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | うつ病 / 炎症性腸疾患 / ドパミン / 炎症性シグナル |
研究実績の概要 |
うつ病と炎症性腸疾患の高い合併率が報告されていることから、うつ病様の表現型を呈する炎症性腸疾患モデルであるデキストラン硫酸ナトリウム (DSS) 投与マウスを用いて、うつ病における炎症性シグナルの役割の解明を目標とした研究を行っている。これまでの検討によりDSS投与マウスでは、コカイン投与時の側坐核ドパミン応答が減弱し、このドパミン応答の減弱はDSS投与時のTDO阻害薬の併用投与により抑制されることから、DSS投与マウスでは側坐核におけるドパミンシグナルが変化している可能性が考えられる。 そこで2023年度は、側坐核での遺伝子発現の変化を網羅的に解析する目的でRNA-Seqを行った。C57BL/6マウスに7日間のDSS飲水投与を行い、8日目(炎症の急性期)または28日目(炎症の回復期)において側坐核のサンプルを作成した。これまでの検討で、DSS最終投与から8日目では、うつ病様行動と大腸の急性炎症が認められる一方で、28日目では、大腸の炎症性病変は回復しているが顕著なうつ病様行動を示すことが明らかになっている。 DSS最終投与から8日目および28日目のそれぞれの側坐核サンプルにおいて、対照群と比較していくつかの遺伝子発現の変動が検出された。さらに発現に変動のあった遺伝子の機能を特定するためにパスウェイ解析を実施した結果、対照群と比較して、8日目では神経変性に関わる遺伝子群の発現が増加していた。また、28日目では、これらの遺伝子群に加えてタンパク質のプロセシングに関わる遺伝子の発現が増加していた。 これらの結果から、DSS投与マウスでは側坐核における遺伝子発現が変化しており、炎症の急性期と回復期において発現変化が持続する遺伝子と、発現パターンが異なる遺伝子が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討により、コカイン投与後の側坐核におけるドパミン応答がDSS投与マウスでは減弱していたことから、DSS投与により側坐核ドパミンシグナル伝達が変化しており、この変化が炎症性腸疾患に併発するうつ病に関与する可能性が考えられる。 RNA-Seq解析を行った結果、DSS投与により側坐核で遺伝子発現の変化が生じており、またその遺伝子発現の変化がDSS最終投与から3週間後(28日目)も持続していたことから、DSSによる大腸の炎症が側坐核の機能に影響しているという仮説を支持する結果が得られた。また、8日目よりも28日目において大きく変動する遺伝子が存在することから、28日目において顕著なうつ病様行動を示す理由を説明できる機序が側坐核に存在することが示唆される結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
側坐核を始め、うつ病と関連する他の脳部位(前頭前皮質、海馬など)のリアルタイムRT-PCRによる遺伝子発現解析や、ウエスタンブロット法によるタンパク質の発現解析やリン酸化解析を行い、DSSによる大腸の炎症が脳内のシグナル伝達をどのように変化させるかを解明する。さらに、うつ病様行動の測定とファイバーフォトメトリーによる脳内ドパミン・ノルアドレナリンの動態解析を行い、伝達物質の放出がどのように変化しているかを明らかにする。また、走査型電子顕微鏡FIB/SEMを用いて神経細胞の形態学的変化を3次元的に解析する。 トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ (TDO) は、炎症性シグナルにより活性化されトリプトファンからキヌレニンへの合成を亢進する。トリプトファンはうつ病に関連深いセロトニンの原材料でもあることから、TDOの活性化によってセロトニン合成が抑制される可能性があり、うつ病の発症への関与が示唆される。したがって、TDOノックアウトマウスやTDO阻害薬を用いて上記の解析を行い、炎症性シグナルがうつ病に関わるシグナル変化にどのように影響するかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入する試薬の納期を考慮し、次年度へ持ち越した。 試薬や抗体等の購入費用に充てる予定である。
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