ピログルタミル化RFアミドペプチド(QRFP)を発現する神経細胞(Qニューロン)は、報酬、情動、ストレス反応に関連する行動の制御に関与する領域に軸索投射することが知られており、マウスでQニューロンが活性化すると、冬眠に似た状態になる。 本研究では、まず、この冬眠様状態を誘導する神経回路がヒトへの外挿性を有することの根拠を調べるため、脳内局所のQ神経の存在をRNAレベルで確認した。ヒト脳total RNAとヒト視床下部 total RNAを用いてRT-PCRで検討した結果、ヒト視床下部においてマウス視床下部と同レベルの発現が確認できた。 89人の睡眠障害患者において、QRFPとオレキシンの脳脊髄液(CSF)レベルを測定した。患者は、ナルコレプシー1型(NT1、25人)、ナルコレプシー2型(NT2、25人)、特発性過眠症(IHS、25人)、クライネ・レビン症候群(KLS、4人)の4つの疾患群に分類された。すべての患者が臨床症状の1つとして過眠を示した。QRFP濃度の測定範囲は1.0~24.1pg/mlで、全体の平均値は6.9pg/mlであった。各群の平均値は、NT1、NT2、IHS、KLSでそれぞれ8.4、6.6、7.5、3.7pg/mlであった。疾患群間で比較すると、KLSのサンプルは他の疾患群よりもQRFP濃度が有意に低かった(p<0.05)。オレキシン濃度は40~548pg/mlで、各疾患群の平均値はNT1、NT2、IHS、KLSでそれぞれ48.8、338.5、331.2、242.8pg/mlであった。群間比較では、オレキシン濃度はNT1群で他の疾患群より有意に低かった(p<0.05)。 KLSの正確な病因はまだ不明であるが、症例の約40%がインフルエンザなどの感染症に罹患していると報告されており、自己免疫機構が関与していると考えられている。これまでの剖検報告では、KLS患者の視床と視床下部における血管周囲のリンパ球浸潤が報告されている。今回の結果は、一部のQRFPニューロンがKLS発症前に活性化した免疫系によって影響を受けていた可能性を初めて示唆するものである。
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