研究課題/領域番号 |
22K07608
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
河原 幸江 久留米大学, 医学部, 准教授 (10279135)
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研究分担者 |
大西 克典 久留米大学, 医学部, 助教 (10626865)
河原 博 鶴見大学, 歯学部, 教授 (10186124)
西 昭徳 久留米大学, 医学部, 教授 (50228144)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ドーパミン / 側坐核 / 前頭前野 / 海馬歯状回 / マイクロダイアリシス / 中脳皮質系ドーパミン神経 / 中脳辺縁系ドーパミン神経 |
研究実績の概要 |
統合失調症などの神経疾患の病態に関与する中脳皮質系ドーパミン神経と中脳辺縁系ドーパミン神経の活性変化は、神経疾患で可塑性が障害される海馬歯状回からどの程度影響を受けるのかを調べた。これまでに、背側歯状回の神経を、薬理学的または化学遺伝学的に活性化や抑制をすると、中脳皮質系ドーパミン神経と中脳辺縁系ドーパミン神経の両方で活動性の有意な変化を起こすことがわかった。今年度は背側歯状回に続き、腹側歯状回の両ドーパミン神経系への影響を調べた。 腹側歯状回は背側歯状回と異なり、中脳皮質系ドーパミン神経を恒常的に抑制していた。さらに、背側歯状回と同じように認知機能に関連する刺激で誘発されるドーパミンリリースに関与する一方で、食物報酬に関連する刺激で誘発されるドーパミンリリースにも関与していた。 中脳辺縁系ドーパミン神経の活動性に関しては、腹側歯状回は背側歯状回と異なり、自然報酬に関連する刺激で誘発されるドーパミンリリースだけでなく、薬物報酬に関連する刺激(コカイン)で誘発されるドーパミンリリースにも関与していた。 したがって、背側歯状回と腹側歯状回の両方が、中脳皮質系ドーパミン神経と中脳辺縁系ドーパミン神経の活性化の制御に関与することがわかった。歯状回においては、腹側のほうが背側よりもドーパミンリリースを誘発するより多くの刺激に関与するようであった。 このように、統合失調症などの神経疾患では歯状回の神経可塑性が障害されるが、これが中脳皮質系ドーパミン神経と中脳辺縁系ドーパミン神経の活動制御に影響を及ぼす可能性が示唆された。そして、外部からの刺激に対するドーパミン応答の異常が起こり、認知機能の障害や報酬に関連する情動異常が起こるかもしれない。 以上の研究結果は、統合失調症などの神経疾患でみられる認知機能や情動の異常に関する神経メカニズムの解明につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は統合失調症の疾患モデルとして、中脳皮質系ドーパミン神経の活性低下と中脳辺縁系ドーパミン神経の活性化を起こすマウスで調べる予定であったが、これらのマウスで予想された統合失調症様の行動変化が現在まで十分に検出されない。そこで予定を少し変更し、海馬歯状回の活性を薬理学的に変化させ、それによる中脳皮質系ドーパミン神経と中脳辺縁系ドーパミン神経のドーパミンリリースから神経活動の変化の機序を探っている。そして、これらのマウスで統合失調症様の行動変化が検出されるのではないかと予測している。こちらはおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、中脳皮質系ドーパミン神経または中脳辺縁系ドーパミン神経の正常な活性変化には、活性変化を起こす刺激の種類によって、P11タンパク質が必要であることを明らかにした。海馬歯状回による中脳皮質系ドーパミン神経および中脳辺縁系ドーパミン神経の活動の制御にP11タンパク質が必要であるかを、P11タンパク質の過剰発現のためのウイルスやP11タンパク質欠損マウスを用いて、中脳皮質系ドーパミン神経または中脳辺縁系ドーパミン神経の正常な活動の変化が影響されるかどうかを検討する。さらに、ドーパミン神経系の活動が影響された状況で、統合失調症様の行動変化がみられるのではないかと予測している。行動試験の種類や設定、環境などに留意して取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
統合失調症モデルマウスの行動試験で期待された統合失調症様の行動が明瞭に検出されないため、統合失調症様の行動を制御する細胞特定のための免疫化学組織を実施しなかった。そのため生じた次年度使用額の予算を海馬歯状回の活性や抑制に用いる薬物やウイルスベクターの購入に使用する。
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