研究課題
アルツハイマー型認知症 [Alzheimer’s disease (AD)] の精神症状発現に、血液中のサイトカインをはじめとする炎症性物質が影響を及ぼす可能性があるが、その詳細は明らかではない。本研究においてはAD患者に対して精神症状を中心に病態の評価を行ったうえで、血液中の炎症系サイトカインを中心とした炎症関連物質に関する網羅的解析を実施し、全身性炎症と精神症状の関係性について検討を行う。また、精神症状がある程度落ち着いておりPETによる脳内炎症イメージング検査が可能な患者については、同時にそれを行うことで、脳内炎症の定量を行う。現在、症例を集めつつある過程である。現時点でAD病理陽性AD患者23名に対して、血液採取および認知症精神・行動評価の実施状況を確認のうえ、血液中のサイトカインをはじめとする炎症性物質と精神行動面の関係について評価を行っている。患者において、Geriatric depression scale (GDS)(抑うつ症状評価)、 vitality index (意欲)、Dementia Behavior Disturbance scale(DBD)(認知症行動障害評価)、Neuropsychiatric Inventory(NPI)(認知症行動・心理症状)についてデータを抽出した。血液中の炎症関連物質に関する検討において、血液データの解析を行った。その結果、全身性炎症を反映する末梢血中のサイトカインの中でも特にIL-6が、DBDに代表される認知症の精神行動障害と相関性を有することが示されつつある。今後、髄液中のIL-6データおよび炎症PETイメージングデータを用いて、末梢血中のIL-6が脳内の神経炎症システムへの影響を介して、精神行動症状の発現につながるのか、あるいは脳内炎症システムとは独立した機序によるものなのかさらなる検討を予定している。
2: おおむね順調に進展している
本研究における研究次年度の計画は、初年度までの経験に基づき検査を継続し、アルツハイマー型認知症(AD)患者の被験者数を拡大したうえで、可能な被験者において、PET分子イメージングにより、脳内炎症病態を定量し、同時に臨床症状評価および髄液・血液中の炎症関連物質の解析を同時に実施することで全身性炎症と同時に、脳内炎症について定量的な評価を行い、全身性炎症と脳内炎症の関係性を評価し、同時に、それらの関係性が、ADの精神症状発現に及ぼす影響を明らかにすることで、ADの精神症状における、全身および脳内炎症を介した発症機序の解明を行うことにある。現在、症例を集めつつある過程である。現時点でAD病理陽性AD患者23名に対して、血液採取および認知症精神・行動評価の実施状況を確認のうえ、血液中のサイトカインをはじめとする炎症性物質と精神行動面の関係について評価を行っている。患者において、Geriatric depression scale (GDS)(抑うつ症状評価)、 vitality index (意欲)、Dementia Behavior Disturbance scale(DBD)(認知症行動障害評価)、Neuropsychiatric Inventory(NPI)(認知症行動・心理症状)についてデータを抽出した。血液中の炎症関連物質に関する検討において、血液データの解析を行った。その結果、全身性炎症を反映する末梢血中のサイトカインの中でも特にIL-6が、DBDに代表される認知症の精神行動障害と相関性を有することが示されつつある。認知症の精神行動障害の評価尺度であるDBD得点とIL6の間に有意な相関(ρ=0.58, P=0.004)を認めており、ADの精神行動症状発現に、炎症性物質が影響を及ぼす事実が裏付けられつつある。
我々の結果は、全身性炎症を反映する末梢血漿中の炎症促進系サイトカインの中でもIL-6が、AD病理を有する患者において、幻覚妄想をはじめとする精神行動面の症状の発現と何らかの関係を有する可能性を示している。今後、より多くの被験者データの解析を進めることで、炎症系サイトカインと精神行動面の関連について、より詳細を明らかにできることが期待される。今後、髄液中のIL-6についても測定を行い。末梢血中の炎症性物質との関連を検討することで、末梢血中のIL-6が、脳に伝搬する可能性について検証する。また、PET炎症イメージング検査が可能なAD患者については、脳内炎症について定量的な評価を行い、全身性炎症と脳内炎症の関係性を評価し、同時に、それらの関係性が、ADの精神症状発現に及ぼす影響を明らかにすることで、ADの精神症状における、全身および脳内炎症を介した発症機序の解明を今後の研究課題として進めていく予定である。本研究によってADの精神行動症状について、全身および脳内炎症を介した発症機序の解明と、抗炎症作用に基づく精神症状改善にむけた治療法の開発の基盤形成が期待できる。
血液中のサイトカインをはじめとする炎症性物質の解析に必要な抗体および物品において備蓄があり、そのために次年度使用額が生じた。しかしながら、備蓄していた抗体は当該年度で全て使い切ったために、次年度使用額を利用して新たに炎症性物質の解析に必要な抗体および物品を購入する予定である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Brain, Behavior, and Immunity
巻: 114 ページ: 214~220
10.1016/j.bbi.2023.08.027
Psychogeriatrics
巻: 23 ページ: 126-135
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