研究課題/領域番号 |
22K07613
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
上村 拓治 山梨大学, 大学院総合研究部, 医学研究員 (60377497)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 双極性障害 / 時計遺伝子 / PER2 / NR1D1 / GSK3β / リチウム |
研究実績の概要 |
双極性障害患者では、細胞内ストレスシグナル伝達を担うカルシウムの恒常性異常を認め、『カルシウムチャネルの機能障害』が示唆されているが、双極性障害における躁、うつといった病相の周期的変化や日内変動といった特徴的な病態(『長期周期性を伴う概日リズム異常』)との関連性はまだ十分に解明されていない。本研究は、①細胞内カルシウムの恒常性異常、②気分安定薬であるリチウムの作用機序(GSK3β阻害作用)、③周期性の長期化を伴う時計遺伝子の発現変動、これらを融合させた分子遺伝学・薬理学的機能解析を行うことによって、双極性障害の発症機序を解明することを目的としている。 昨年度は、YKG-1細胞を用いて、1mM LiCl長期投与(7日間)時における概日リズムを担う時計遺伝子であるCLOCK、BMAL1の発現をqRT-PCRで評価し、CLOCKおよびBMAL1の発現は増加していることを認めた。また、RNAiベクターによってGSK3βの発現が安定にノックダウンしているYKG-1細胞株では、BMAL1の発現は増加していたが、当初の予想と反して、CLOCKの発現量は減少しているといった知見を得た。 本年度は、昨年度に得られた知見の妥当性を検証するために、ヘテロダイマーを形成しているCLOCKとBMAL1とともに概日リズムの分子メカニズムを形成しているPER2およびNR1D1のの発現変動をqRT-PCRで評価した。1) YKG-1細胞において、1mM LiCl長期投与(7日間)した際、PER2の発現は減少し、NR1D1の発現は増加していた。 2) RNAiベクターによってGSK3βの発現が安定にノックダウンしているYKG-1細胞株では、PER2の発現は増加し、NR1D1の発現は減少傾向を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年および本年度の研究結果より、1mM LiCl長期投与(7日間)によって、ヘテロダイマーを形成しているCLOCKとBMAL1だけでなく、これらの遺伝子とともに概日リズムの分子メカニズムを形成しているPER2およびNR1D1の発現も変動していた。また、GSK3βの発現が安定にノックダウンしているYKG-1細胞株を用いた実験により、CLOCK、BMAL1だけでなく、PER2およびNR1D1の発現もGSK3βと関連することが示唆された。しかしながら、時計遺伝子群は生体の細胞と同様にYKG-1細胞を含む培養細胞においても、約24時間のリズムを刻んでいる。しかしながら、培養細胞は暗所や37度などの一定な環境のもとで維持・増殖しているため、個々の細胞が同調してリズムを刻んでいるとは限らない。そのため、1mM LiCl長期投与(7日間)におけるCLOCK、BMAL1、PER2、NR1D1の発現リズムを詳細に評価するためには、これらの統計遺伝子を同調させた上で、各遺伝子の周期性を含めた発現変動および相関を評価する必要性を認めた。現在、過去の文献を検索しながら、YKG-1細胞における時計遺伝子群の同調条件を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
1)YKG-1細胞における時計遺伝子群の同調条件を検討し、CLOCK、BMAL1、PER2、NR1D1の周期性を含めた発現変動を確認する。 2)CLOCK、BMAL1、PER2、NR1D1の周期性を含めた発現変動を確認した後、1mM LICl7日間投与後の各遺伝子の周期性を含めた発現変動を評価する。 3)GSK3βの発現が安定にノックダウンしているYKG-1細胞株についても、細胞を同調させた上で、CLOCK、BMAL1、PER2、NR1D1の周期性を含めた発現変動を確認する。 4)CACNA1Cが安定にknock downしているYKG-1細胞株[申請者によって既に作成済み]を用いて、上記と同じ実験を行い、CACNA1Cと時計遺伝子群の遺伝子間相互作用を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度および本年度の研究で、リチウムの長期投与によってCLOCK、BMAL1だけでなく、PER2およびNR1D1の発現も変化することがわかった。また、これらの遺伝子は、GSK3βの発現が安定にノックダウンしているYKG-1細胞株においても発現の変動を認めた。しかしながら、昨年度および本年度の研究で得られた知見から、リチウムの長期投与によるCLOCK、BMAL1、PER2、NR1D1の発現リズムを詳細に評価するためには、これらの統計遺伝子を同調させた上で、各遺伝子の周期性を含めた発現変動を評価する必要性を認めた。これまでの研究で得られた知見の妥当性を検証するために、過去の文献を検索しながら、YKG-1細胞における時計遺伝子群の同調条件の検討を慎重に行う必要があり、次年度へと繰り越し、使用額の変更が生じた。
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