研究課題/領域番号 |
22K07614
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
大井 一高 岐阜大学, 医学部附属病院, 准教授 (70629203)
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研究分担者 |
塩入 俊樹 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (40235487)
原 武史 岐阜大学, 工学部, 教授 (10283285)
北市 清幸 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40301220)
曽田 翠 岐阜薬科大学, 薬学部, 講師 (30592604)
西澤 大輔 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 主席研究員 (80450584)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 双極性障害 / 中間表現型 / ポリジェニックリスクスコア / 人工知能 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
統合失調症(SZ)と双極症(BD)は、遺伝的・臨床的に異種性を示し、多因子遺伝形式をとる精神疾患である。両疾患の病態には双方に共通する遺伝素因と疾患特異的な遺伝素因の存在が想定される。また、両疾患の異種性を軽減するための有望な疾患特異的な中間表現型として、認知機能や脳構造等が候補として挙げられる。本研究の目的は、全ゲノムに渡る遺伝子多型を用いて算出した精神疾患や中間表現型の種々のポリジェニックリスクスコア(PRS)と認知機能や脳構造等の中間表現型を組合せて、機械学習を活用することにより、SZとBDを精度高く判別可能な遺伝的・臨床的指標の同定を目指すことである。 目的達成のために、両疾患間における脳皮質下体積変化を検討し、SZにて扁桃体体積の低下を同定した(Ohi et al. J Psychiatry Neurosci 2022)。また、これまでにBDではなくSZでのみ知的機能障害との間に双方向性の因果関係を報告していたため、さらにBDからSZを区分できる遺伝因子と知的機能間の関連について検討した。BDからSZを区分できる遺伝因子と知的機能間に負の相関を見出した(Ohi et al. BJPsych Open. 2022)。さらに、SZの中間表現型として、脳幹の橋体積減少や(Aoyama et al. Schizophrenia 2023)、嗅覚識別機能低下(Fukuda et al. Aust N Z J Psychiatry 2023)等も有用な臨床指標となり得る可能性を示した。ここまでの結果から、両疾患の鑑別には,脳皮質下構造としては扁桃体体積が有用であること、認知機能が因果関係だけでなく遺伝学的にも有用であることを示唆している。引き続き、PRSやメチル化等の遺伝的指標や扁桃体体積、認知機能等の臨床指標を組合せ、機械学習を駆使して両疾患の判別指標の同定を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SZ、非罹患第一度近親者(FR)および健常者を対象とした「SNARP:Schizophrenia Non-Affective Relative research Project」、BDとSZを対象とした研究体制「B-SNIP-J:Bipolar & Schizophrenia Network on Intermediate Phenotypes-JAPAN」よりリクルートした被験者において、種々の中間表現型の評価およびジェノタイピングを継続している。脳皮質下体積変化を検討し、海馬体積の両疾患における減少に対して、扁桃体体積はSZのみで低下を示した(Ohi et al. J Psychiatry Neurosci 2022)。さらに、SZの中間表現型として、脳幹の総体積や橋の体積減少(Aoyama et al. Schizophrenia 2023)、嗅覚識別機能低下(Fukuda et al. Aust N Z J Psychiatry 2023)、統合失調パーソナリティ傾向(Sakaida et al. Asian J Psychiatr 2023)等も有用な臨床指標となり得る可能性を示した。 また、これまでにSZでのみ知的機能障害との間に双方向性の因果関係を報告していたため、さらにBDからSZを区分できる遺伝因子と知的機能間の関連について検討し、その遺伝因子と知的機能間の負の相関を示した(Ohi et al. BJPsych Open. 2022)。さらに、PGC2よりも最新のPGC3由来のPRSを用いる方が、欧米人SZやBDと日本人SZやFR間における遺伝的共通性をより説明できることを示した(Ohi et al. Psychol Med 2022)。現在、5種類の機械学習モデルを用いて精神疾患や中間表現型のPRSを組合せることで疾患判別の精度向上を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで同様に、既に確立されたSZ患者、BD患者、非罹患第1度近親者および健常者を対象とした研究体制SNARPやB-SNIP-Jにより、効果的、効率的に被験者のリクルートを継続する。 ヒトゲノム上のSNPは数百万箇所あり、中間表現型のひとつである脳画像は多くの領域に区分され、認知機能は多領域に渡るなど、遺伝・臨床情報は膨大であり、手作業で、その中から両疾患の判別に有用な指標を見出すには、有用な指標の見逃しを生じる可能性がある。そこで、ニューラルネットワークやサポートベクターマシーンなどの機械学習などの人工知能 (AI)技術が解決に役立つ可能性がある。今後、同定した扁桃体体積や知的機能などの中間表現型とPRSを組み合わせ、さらに機械学習を駆使することで線形解析だけでなく種々の非線形解析も可能となり、両疾患を判別可能な遺伝的・臨床的指標の同定を試みる。さらに、遺伝的・臨床的指標の多層データを組合せ、機械学習を活用することでより詳細で正確な判別解析が可能となる。両疾患を精度高く判別可能な遺伝的・臨床的指標を同定できるかを検討していく。 共同研究機関と打ち合わせを継続し、研究成果を日本統合失調症学会、日本生物学的精神学会、日本神経精神薬理学会などの国内学会だけでなく、国外の学会や国際誌においても公表する。さらに、新聞などのマスメディア、インターネットなどのソーシャルメディアにて研究成果を社会・国民に発信する。
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