研究課題/領域番号 |
22K07666
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
上田 真史 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (40381967)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / ペプチドトランスポーター / ジペプチド / 腫瘍微小環境 / 低pH |
研究実績の概要 |
本研究では、①ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使用するためのホウ素含有ジペプチド薬剤、②その薬剤の腫瘍移行量を非侵襲的に評価するための放射性ジペプチドプローブの開発を行うことを目的とする。 ジペプチドを細胞内に取り込むペプチドトランスポーター(PEPT1)は、基質と水素イオンを共輸送することが知られている。多くの固形腫瘍に共通する低pH微小環境では、細胞外の水素イオン濃度が高い状態にあるため、基質(ジペプチド)取り込みの亢進が期待できる。すなわち本研究では、腫瘍細胞に発現するPEPT1を介してホウ素含有ジペプチド薬剤を腫瘍細胞内に能動輸送することで、腫瘍への高効率・選択的なホウ素送達を達成する。また、適用患者の選別や投与量決定に資するための放射性ジペプチドプローブも開発することで、診断結果(エビデンス)に基づく個別化治療を実施するテーラーメイドBNCTの基盤構築に貢献する。 初年度の検討として、既存のBNCT薬であるBPAにフェニルアラニン(Phe)を結合させてジペプチド化したBPA-Pheを合成し、pHを変えて細胞内取り込み量を評価したところ、pH6.8における取り込み量は、pH7.4における取り込み量の1.3倍大きく、低pH環境における取り込み亢進をインビトロで実証できた。 また、Pheを含むジペプチドを複数種類合成し、それらのPEPT1に対する親和性を3H-Gly-Sarを放射性リガンドとする競合阻害実験により評価したところ、いずれのジペプチドもPEPT1の基質であるGly-Sarよりも高い親和性を有しており、ホウ素含有ジペプチド薬剤として有用性が期待できる母体構造を複数見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画ではBPAを含むジペプチドを複数種類合成し、それらのPEPT1に対する親和性を評価する予定であったが、BPAの入手に時間を要するため、モデル化合物としてBPAの代わりにPheを用いてジペプチドを合成し、親和性を評価した。有望な構造を複数種類見出すことはできたものの、ホウ素は含んでいないことから、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ素含有ジペプチド薬剤の開発研究については、次年度も継続して薬剤の合成とインビトロ評価を行う。良好な移行性を示したものは担がんマウスに投与して、ICP発光分光法により腫瘍内のホウ素量を測定し、インビボでの有用性を評価する。得られた知見から、必要に応じて非特異的集積軽減や代謝安定性向上のための構造改変を行う。またMTTアッセイによるインビトロ細胞毒性試験を実施する。放射性ジペプチドプローブの開発研究については、良好な移行性を示したジペプチド薬剤の標識前駆体合成および標識検討を行う。標識核種(18Fあるいは123I)はジペプチドの構造に応じて選択する。担がんマウスに投与して、臓器摘出法により体内動態を評価するとともに、得られた知見をプローブ設計にフィードバックして必要に応じて構造改変を行う。 最終年度は、ホウ素含有ジペプチド薬剤の開発研究については、担がんマウスを用いてインビボでの有用性評価を継続する。また正常マウスに投与して行動評価と組織学的観察を行い、薬剤の毒性をインビボで評価する。放射性ジペプチドプローブの開発研究については、PET/SPECT撮像によりプローブの体内動態を評価し、ICP発光分光法の定量結果と比較することで、ホウ素薬剤の腫瘍移行量を生体イメージングによって推定可能かどうか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時点で予定していた学会参加を一部取り止めたため、次年度使用額が発生した。 次年度の研究遂行に必要な消耗品を購入するために使用する予定である。
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