研究課題
PTC検体を用いて、TERT-p変異とヨウ素の取り込み、治療効果との関連を詳細に検討するために、昨年度に引き続き症例の選別・収集を行った。2012年1月1日から2021年12月31日の間にRAI治療を長崎大学病院で行った236症例に対し、RAI集積の有無と治療効果を効率的に判定するために以下の選択基準を満たす症例を対象とした。①初回RAI治療を長崎大学病院で行った症例、②長崎大学病院、長崎医療センターで手術を行った症例、③局所残存・再発、リンパ節転移、遠隔転移を有する症例または初回RAI治療で甲状腺床以外にRAI集積を認める症例。また以下に該当する症例を除外した。①手術時の年齢が20歳未満、②病理所見で低分化成分を認める、③初回RAI治療前に放射線外照射治療歴がある、④RAI集積が炎症や生理的集積を疑う、⑤初回RAI治療時にダブルキャンサーを認める。臨床病理学的所見は診療録から収集した。236例中、選択基準を満たしたのは73例で、このうち8例を除外し、65例を研究対象とした。この症例について、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本サンプルからDNAを抽出し、Droplet Digital PCR法にて、BRAF及びTERT-p変異の有無を確認した。TERT-p変異陽性症例は、全て放射性ヨウ素抵抗性の定義に該当することが明らかとなった。無増悪生存期間を評価項目にしたカプランマイヤー曲線では、TERT-p変異陽性症例は、変異陰性症例と比較して、有意に無増悪生存期間が短いという結果であった。現在、その他の臨床病理学的特徴との関連を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
適切な症例を選別し、解析することができている。
RAI治療に対する抵抗性とTERT-p変異との関連引き続き臨床病理学的特徴との関連を統計学的に解析し、TERT-p変異とヨウ素の取り込み、治療効果との関連を詳細に検討する予定である。RAI治療抵抗性メカニズムの解明RAI治療抵抗性のメカニズムとして、(1)ヨウ素取り込みに関連する遺伝子の発現低下や機能異常によるもの、(2)甲状腺癌細胞の放射線耐性によるものが考えられる。以下の検討によって、RAI治療抵抗性の分子メカニズムを明らかにする。甲状腺細胞にヨウ素が取り込まれる際、ヨードトランスポーター(sodium iodide symporter: NIS)を使って細胞内に取り込まれることが分かっている。(1)ヨウ素取り込みに関連する遺伝子の発現低下については、臨床サンプルを用いて、NISの発現量と、放射性ヨウ素の集積量、TERT-p変異との関連について検討する。(ヒト甲状腺細胞株は正常も含め、すでにNISの発現を失っており、細胞株での検討は難しいことがわかっている。)(2)甲状腺癌細胞の放射線感受性については、甲状腺癌細胞株においてsiRNAによるTERTノックダウン、もしくはCRISPR/Cas9等でTERT-p変異を導入(またはwild-typeへ置換)し、放射線感受性の変化を検討する。TERTは、変異アレルからのみ発現することが報告されているため、変異アレルのコアプロモーター領域をCRISPR/Cas9でノックアウトすることで、TERTの発現をなくすという方法も検討する。これらの細胞に放射線を照射し、放射線感受性、DNA損傷応答分子の動態、DNA修復能(g-H2AX)などをコロニー形成アッセイ、ウエスタンブロット、蛍光免疫染色を用いて比較検討する。
症例の選定作業を行い、236例中、選択基準を満たしたのは73例で、このうち8例を除外し、65例を研究対象としたため、核酸抽出、変異解析のための予算が予定より少なかった。さらに症例を増やし、次年度に核酸抽出、変異解析のための試薬の購入に充てる予定である。
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