研究課題/領域番号 |
22K07785
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
岡村 敏充 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 先進核医学基盤研究部, 主任研究員 (80443068)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | グリンパティックシステム / PET / イメージング |
研究実績の概要 |
脳にはグリンパティックシステムという老廃物排出システムが備わっており、非常に効率よく有害なタンパク質を脳から除去していることが動物実験で分かってきた。従って、グリンパティックシステムの活性化あるいは破綻が、生体にどのような影響を及ぼすかを理解することは、脳疾患の病態解明や新規診断法の開発に重要であると考えられる。そこで、本研究ではポジトロン断層撮像法(PET)を用いて、グリンパティックシステムによる排出能を非侵襲的かつ定量測定するための方法を開発する。申請者はこれまでに、脳内の代謝を利用して、速やかに標的トランスポータの基質に変換するPETトレーサを開発し、トランスポータイメージングに成功している。本研究課題では、これまでに行ったトランスポータイメージング用トレーサの設計とは逆に、トランスポータに対して親和性の低い代謝物が脳内で生成されるようにトレーサを設計し、グリンパティックシステムの定量イメージングを試みる。脳内代謝物が拡散とトランスポータによる血液脳関門を介した排出を受けなければ、脳脊髄液トレーサのように、脳からの排出速度はグリンパティックシステムによる排出能を反映するものと考えられる。今年度は、候補化合物として血液脳関門を通過し、トランスポータMRP1の基質とならない、あるいはMRP1に対して親和性の低いグルタチオン抱合体を生成するような[11C]alkyl iodideを設計した。標識合成法については当初の計画に従って、[11C]CO2とグリニャール試薬を反応させカルボン酸塩とした後、水素化アルミニウムリチウムで還元し、ヨウ化水素酸と反応させ、目的とする3種の[11C]候補化合物を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、候補化合物として、血液から脳組織へ速やかに移行後、トランスポータMRP1に対して親和性の低いグルタチオン抱合体に変換されることが期待される[11C]alkyl iodideの設計・標識合成を行った。当初の計画どおりの[11C]候補化合物を得ることができたので、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、本研究課題はおおむね計画通りに進み、3種の[11C]候補化合物を得ることに成功した。今後は、各[11C]候補化合物について、グルタチオン転移酵素存在下あるいは、脳ホモジネート中における[11C]候補化合物とグルタチオンとの反応速度を評価する。インビボでは、[11C]候補化合物をマウスに静脈内投与し、十分な放射能を脳内に送達できるかどうかを調べる。また、[11C]候補化合物投与後の脳内化学形をHPLCにより分析し、未変化体が消失し放射性代謝物がそれぞれの[11C]グルタチオン抱合体となっていることを確認する。並行して、脳脊髄液トレーサの[11C]メチル化アルブミンを合成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は概ね予定通りに進んでおり、合成実験にかかる物品費が予定よりも少なく済んだことから、次年度使用額が生じた。
次年度の研究費については、主として動物試験に関わる物品の購入を計画している。また、設計した[11C]alkyl iodideが望ましい性質を持たない場合は、[11C]候補化合物を再設計し合成を行う必要があるので、これらの実験に関する消耗品を購入する。
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