研究課題/領域番号 |
22K07788
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研究機関 | 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)) |
研究代表者 |
前田 嘉一 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)), 陽子線治療研究所研究部門, 研究員(医学物理士) (70448025)
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研究分担者 |
佐藤 義高 福井県立病院(陽子線がん治療センター(陽子線治療研究所)), 陽子線治療研究所研究部門, 研究員(医師) (10464067)
高田 宗樹 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (40398855)
片山 正純 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90273325)
高橋 泰岳 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (90324798)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 陽子線治療 / CT画像誘導 / 肝細胞がん / 自動輪郭生成 / 疑似画像生成 / 深層学習 / 適合放射線治療 |
研究実績の概要 |
肝臓がんの陽子線治療はその有効性が認識され、2022年度より一般国民保険の対象となった.今後、治療患者数の増加が予想されるため、より安全な治療実践のための研究開発が必要である.特に、がん部の位置は柔らかな肝臓内部にあり、臓器変形によって変わるため日々の治療において画像誘導による位置確認が必要である. 本研究は当院の肝細胞がん陽子線治療で取得したMRI画像とCT画像を利用して深層学習モデルを構築し、画像誘導用CT画像における病巣部の視覚認識を支援する技術開発を行う. 2022年度は、219症例について治療計画用CT画像とMR画像(T12強調画像、Gd-EOB-DTPA造影画像)を収集し、肝臓及び視覚的腫瘍体積(GTV)を作成した.GTVはCT画像と造影MR画像を参照して医師が作成した.この造影MR画像は、患者にGd-EOB-DTPAを投与して撮像される.造影剤を取り込んだ正常な肝細胞領域は高信号、取り込む機能が低下した腫瘍領域は低信号となる.この造影MR画像が持つ信号特性を、画像誘導用CT画像から疑似的に生成することが可能となれば、GTVの自動生成機能と連携することによって、病巣部の視覚支援が可能になると考えた. 始めに上記画像と輪郭情報の匿名化データを作成し、研究に利用するデータ環境を整備した.次に、深層学習モデルU-Netを利用して、1) CT画像上の肝臓輪郭、2)CT画像と造影MR画像上にGTV輪郭を自動生成するソフトを開発した.また、同じモデルとCT画像と造影MR画像の対データを利用して、3)CT画像から疑似的に造影MR画像を生成するモデルを開発した.それぞれのモデルについて、ダイス係数による教師データと予測輪郭の一致度の評価、疑似造影MR画像と教師データの信号一致度の評価をそれぞれ行い、CT画像によるがん病巣部認識の支援方法について検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度に購入した深層学習用端末において、深層学習モデルのソフトを構築し教育及び評価を行った.219症例について159例を教育データ、60例を検証データとして利用した.CT画像の検証データについて、1)モデルが生成した肝臓輪郭と医師が作成した輪郭の一致度をダイス係数(完全一致=1、一致無し=0)によって評価した。その結果、平均値0.95±0.02と良い結果が得られた.同様に、2)CT画像におけるGTVの輪郭生成については、ダイス係数0.1を超えた症例は1例(0.22)のみで、0.05を超えた症例は6例であった.一方、2)造影MR画像におけるGTVでは、ダイス係数0.05を超えた症例は24例でその係数は0.1-0.85の範囲であった.CT画像のみからGTVを認識することは困難であり、造影MR画像の情報が必要である.次に、3)CT画像から学習モデルによって生成した疑似造影MR画像生成については、本来のMR画像ピクセル信号値に対する疑似画像ピクセル値の平均誤差はGTV及び正常肝体積内部のそれぞれについて16%と13%であった.この誤差は、GTV領域を識別する画像コントラストに影響し、それを正常肝領域に対するGTV領域のピクセル信号比で評価すると0.9±0.1であった.一方で、本来の造影MR画像の信号比は0.7±0.2であった.CT画像から生成した疑似MR画像では、病巣部を識別する画像コントラスト能力が劣化していた.それでも、この疑似MR画像において、視覚的に病巣部を認識できると判断される症例は26例であった.これは、造影MR画像において自動認識できた症例(GTVダイス係数>0.05)と同等の認識レベルであった.従って、CT画像から生成した疑似MR画像を利用することによって病巣部領域の認識率が向上する可能性が示唆されたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
造影MR画像におけるGTVの認識率と自動輪郭精度、また、CT画像から生成された疑似造影MR画像と本来の造影MR画像との一致度の向上を目的とする検討及び開発を継続する. その対応策として、1)関心領域を含む画像範囲をできるだけ絞った画像(肝臓領域)を深層学習モデルの学習に用いる. 本研究で構築した学習モデルによってCT画像で肝蔵輪郭を自動生成し、その輪郭情報によってCT画像から肝臓領域に相当する画像を作成する事前処理システムを構築し、モデルの学習や予測に利用する.2)過学習や汎化誤差を低減する方法について検証を行う.まず、MR画像の信号強度補正方法を検討する.造影剤の肝細胞及び腫瘍領域へ取り込み濃度は、患者毎に異なるため単にMR画像の最大信号値によってスケーリングするといった方法では患者毎の信号強度のばらつきを補正することができない.教育データにおける疑似MR画像ピクセル値の誤差平均は6-7%で、検証データの誤差(16~13%)に対して小さい.これは、現在の学習モデルにおいて、過学習が生じ様々な症例に対する汎化能力が悪いことを示す.信号強度のスケーリング法や画像データの水増し(Data augmentation)によって、学習モデルの汎化性能の改善を試みる.スケーリング変換、コントラスト変換、画像位置・回転・反転変換等を検討する.また、GANによる疑似的なデータ生成による学習データの水増しも検討する.3)高精度の輪郭一致能力を有するResidual U-Netや入力画像を3次元的に扱う深層学習モデルを構築して検証を行う.3次元画像に対応した3D-U-Netは、深層学習用端末のGPUメモリーサイズ制限によって水増しされた画像データを取り込むことが困難である.2D画像から部分的に3D画像を構成するAH-Netの利用を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
端数残余額(600円)である。
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