研究課題/領域番号 |
22K07789
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
細川 洋一郎 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (70173599)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 放射線治療 / サリノマイシン / 癌幹細胞 / 放射線抵抗性 |
研究実績の概要 |
放射線放射線抵抗性を有する癌幹細胞は放射線治療後に残存し、再発や遠隔転移の原因となる。 サリノマイシンは化合物スクリーニングにより癌幹細胞特異的な新たな化学薬剤として報告されている。先行研究により、分割照射によって樹立された臨床関連放射線抵抗性細胞株は、癌幹細胞マーカーであるCD44陽性/CD24陰性細胞割合が親細胞株と比較して増加しており、サリノマイシンに対する感受性が高いことが推測される。2022年度の研究では、放射線抵抗性を獲得した口腔扁平上皮癌細胞に対するサリノマイシンの放射線増感効果を検証した。 口腔扁平上皮癌細胞株SAS細胞とその放射線抵抗性細胞株である SAS-R細胞を使用し、サリノマイシン投与X線照射併用による細胞生存率をコロニー形成アッセイで評価した。また、癌幹細胞特性の1つである球形成能を測定するために、SASおよびSAS-R細胞を無血清培地で低接着ディッシュを使用し培養した。サリノマイシンの濃度は0または0.3 μMとした。播種してから7日間培養後、最大径50 μm以上の球をカウントした。 その結果、細胞生存率測定の結果、非照射ではSAS細胞、SAS-R細胞いずれも濃度依存的に生存率が低下した。また、球形性能測定の結果、SAS細胞よりもSAS-R細胞で球のカウント数が増加した。 一方、サリノマイシン0.3 μM投与した場合では、SAS-R細胞で対照と比較し有意に減少した。 以上の結果から、放射線抵抗性細胞株であるSAS-Rは親細胞株であるSASと比較して癌幹細胞特性を獲得しており、サリノマイシンに対する感受性が高いことが明らかとなった。 したがって、サリノマイシンの放射線増感効果は癌幹細胞特性に起因することが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は科学研究費補助金申請段階で、2022年度サリノマイシンの放射線抵抗性細胞および癌幹細胞に対する殺傷効果および細胞遊走能の実験、2023年度サリノマイシンの放射線抵抗性細胞および癌幹細胞に対する機構解明、2024年度in vivo 転移アッセイによるサリノマイシンの効果判定、と実験計画を作成した。2022年度は細胞遊走性の研究は行わなかったが、非放射線抵抗性細胞株HSC-2に比較して、放射線抵抗性細胞株HSC-2Rは放射線に対してアポトーシス抵抗性になっており、癌幹細胞マーカー陽性細胞の割合が増加していることを確認し投稿した。放射線抵抗性細胞に対するサリノマイシン効果判定に重要な知見であり、総じて計画通りに進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
サリノマイシン投与の放射線増感効果機構を検証するため、癌幹細胞マーカーであるCD44とCD24を用いてSAS細胞から癌幹細胞画分と非癌幹細胞画分の細胞をフローサイトメトリーで抽出し、サリノマイシン投与時の細胞生存率を測定する。加えて、癌幹細胞分画細胞のアポトーシスを、annexin Vとプロピジウムヨウ化物(PI)による染色によりフローサイトメーターで測定する。並行して Wnt、FGF、Notch の発現がサリノマイシン投与により減少するか否かを、ウェスタンブロットまたはフローサイトメーターにより判定する。これら一連の分析により、口腔癌に対するサリノマイシンの作用機序を推定する。また、放射線抵抗性口腔扁平上皮癌細胞中の癌幹細胞に対するサリノマイシンの効果を論理的に推定するため、放射線生存率モデルへの適合を行い、臨床的放射線治療効果の判定に役立てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定では遊走アッセイを2022年度に行う予定であったが、放射線抵抗性株内の幹細胞様細胞割合を解決する必要が生じ、この問題が解決するまで延期することが必要となったため。来年度に遊走アッセイの研究を行う。
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