研究実績の概要 |
初年度の研究により自作マイクロコイルでは想定されたS/Nの改善が見込めないことが理解されたため、脳老廃物の排泄過程についての新しい計測方法を検討することにした。検討したのは血液脳関門(BBB)透過性の計測である。持続的動脈飽和ラベル(pCASL)法では複数のPost Label Delay(PLD)と複数の撮像エコー時間(TE)の測定をおこない、その信号変化から2-コンパートメントモデルを利用することで、脳血流量(CBF)と動脈血到達時間(ATT)、BBB透過性を示す交換時間(Tex)とボクセル内透過時間(ITT)を推定する手法が提案されている。この手法をラット脳血流計測モデルに当てはめ、正常モデルラット(5匹)、脳梗塞モデルラット(4匹)でその測定精度を検討することにした。解析はMatlab上で開発した自作ソフトを利用し、CBF,ATT,Tex,ITTの4つのパラメータを正値とするシンプレックス探索法で推定した。 正常モデルラットについてはその平均値がCBF:97ml/100g/min, ATT:21ms, Tex:366ms, ITT:5msとして推定され、これまでの報告例とほぼ一致していることから、モデル解析が適切におこなわれているものと考えられた。脳梗塞再灌流モデルラットでは、脳梗塞後1日後でCBF:130ml/100g/min, ATT:390ms, Tex:630ms, ITT:110msとして推定され、BBBが破綻している様子が観察された。また、BBBの破綻による影響以上に脳血流量が上昇しており、臨床例の血栓回収後にしばしばみられる過灌流を反映しているものと考えられた。Texを評価することにより、脳梗塞後1~3日後のBBB破綻の変化を連続的に評価することが可能であり、この手法の有用性が示された。今後、この結果を踏まえて臨床患者への適用を検討していきたい。
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