研究課題/領域番号 |
22K07814
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
菊池 達矢 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 先進核医学基盤研究部, 主幹研究員 (90392224)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 骨イメージング / ポジトロン断層撮像法 / PETプローブ |
研究実績の概要 |
本課題では、炭素-11標識したメチルマロン酸([11C]メチルマロン酸)がマウスやラットの骨に高濃度かつ特異的に集積する一方で、ハイドロキシアパタイトにはほとんど結合しないことに着目し、メチルマロン酸を基本構造とする新たな骨診断情報を与える新規骨イメージング薬剤の開発を行っている。[11C]メチルマロン酸の一部は生体内において糖新生経路により[11C]グルコースに変換されるため、がんの骨転移では [11C]メチルマロン酸の骨への集積と[11C]グルコースのがん細胞への集積を判別できない。そこで、代謝安定性を有し、[11C]メチルマロン酸と同等の骨集積性を有する誘導体の開発を目指している。 2022年度では、代謝に安定な骨イメージング薬剤の候補として、まずα位にメチル基を導入した[11C]ジメチルマロン酸の標識合成を行い、小動物ポジトロン断層撮像法により評価を行った。[11C]ジメチルマロン酸の標識合成は、メチルマロン酸のジエチルエステルを前駆体とし、[11C]ヨウ化メチルを用いて行った。メチルマロン酸のジエチルエステルへの11C-メチル基の導入は高効率に進行したが、標識合成後のHPLCによる精製では、[11C]ジメチルマロン酸の保持時間が[11C]メチルマロン酸と大きく異なったため、適切なHPLCカラムの選定を行い最終的に十分な収率と純度で[11C]ジメチルマロン酸注射液の調整を行うことができた。この[11C]ジメチルマロン酸をラットに投与して体内動態を観察したところ、期待通りに骨への集積性は維持された一方で、脳への集積が無くなった。このことは、α位へのメチル基の導入が糖への変換を抑制し、また脳移行性の代謝物の生成もないことを示した。しかしながら、全身のびまん性の分布は解消されなかったことから、骨以外の組織からのクリアランスを促進するような置換基の導入が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の検討により、[11C]メチルマロン酸のα位への置換基の導入は骨集積に大きな影響を与えないことを確認することができた。本課題の遂行において、メチルマロン酸が骨組織のどこに集まるのかを知ることは、メチルマロン酸の骨集積の機序を解明するのに重要な手掛かりとなる。そこで、[11C]メチルマロン酸をげっ歯類に投与し、オートラジオグラフィーと組織染色によりメチルマロン酸の骨組織における局在を明らかにする必要がある。一般的な軟組織と異なり骨のスライス切片の作成には粘着フィルムを用いた方法が必要であるが、本年度において本方法を習得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の結果から、骨イメージングを目的とする[11C]メチルマロン酸誘導体には骨以外の組織からのクリアランスを促進する修飾が必要である。そこで、水溶性の高い水酸基やニトリル基などをα位に導入した [11C]メチルマロン酸の標識合成と基礎評価を行う。また、本年度に習得した骨スライス作成技術を用いてオートラジオグラフィーと組織染色によりメチルマロン酸および誘導体の骨組織における局在を明らかにする。また、 [18F]フッ化ナトリウム投与時の放射能局在も比較検討し、従来の骨イメージングとの放射能局在の差異を明らかにする。さらに、これらとあわせて、インビトロで培養骨関連細胞を用いた検討を行うことで、[11C]メチルマロン酸および誘導体がどのように骨に集積するのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナによる学術集会の不参加や、在宅勤務の推進が主な要因であり、比較的少額の未使用経費が発生した。次年度は本助成金と合わせて研究を推進し、アウトリーチ活動なども積極的に行う。
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