研究課題
多機関共同研究による症例・試料の収集を継続し、新たにレジストリに98症例、バイオレポジトリに214試料を登録した。抗神経抗体の測定方法として、cell-based assay法に加えてマウス脳切片を用いたtissue-based assay法のプロトコールを確立し、この方法により抗神経抗体の幅広いスクリーニングか可能となった。レジストリのデータを用いて、小児のけいれん性疾患において自己抗体陽性を予測する臨床スコアの作成を試みた。まず成人のてんかんで抗体陽性を予測するAPEスコアの小児における有用性を検討したところ、感度は十分だが特異度が約20%と極めて低いことが明らかになった。そこで小児用に改変したpaediatric antibody prevalence in seizure (PAPS)スコアを新たに作成し、PAPSスコアがAPEスコアに比べてAUC解析により有意に優れていることを証明した。PAPSスコアは自己免疫機序が疑われるけいれん性疾患に対する治療方針を決定する際に有用なツールとなると期待される。また小児の炎症性脱髄性疾患であるMOG抗体関連疾患で陽性となるMOG抗体の病原性に関する解析を行った。HEK293細胞にヒトMOGタンパク質を発現させ、補体の存在下または非存在下でヒト血清中のMOG抗体と反応させた。86人の患者と11人の健常人の血清を使用し、MOG抗体価、IgGサブクラス、細胞傷害能を解析した。MOG陽性血清はMOG発現細胞に細胞死を引き起こし、細胞毒性作用は血清を熱不活性化すると消失した。十分な細胞毒性作用にはMOG IgGと添加された補体が必要であった。MOG自己抗体は組織学的に補体と共局在し、MOG IgGと補体因子からなる膜攻撃複合体を形成していた。このことから、この自己抗体が補体を介した細胞傷害性を活性化したことが示された。MOGADにおける補体の役割を明らかにするためには、より多くの患者を対象としたさらなる研究が必要である。
2: おおむね順調に進展している
症例レジストリおよびバイオレポジトリへの症例登録は順調に進んでおり、これらのデータと試料の解析による成果は2023年度中に二つの論文として既に刊行された。
現在はGFAP抗体やGABA-A受容体抗体等の新たな自己抗体の解析にも取り組み始めており、また小児のNMDAR脳炎のデータを用いた新たな研究の成果を2024年度中に報告できる予定である。
2023年度は研修生だけで実験業務の補助に十分であったため、研究補助員を雇用する必要がなくなり、予定していた人件費の支出がなくなった。また学会出張の回数が予定よりも減ったため、旅費の支出が少なくなった。2024年度は研修生の数が減るため研究補助員雇用のための支出が見込まれるほか、学会出張旅費も支出する予定である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Journal of the Neurological Sciences
巻: 457 ページ: 122867~122867
10.1016/j.jns.2024.122867
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巻: 17 ページ: 1014071
10.3389/fnins.2023.1014071
巻: 17 ページ: 1085082
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