小児急性リンパ性白血病(ALL)においてステロイドホルモン抵抗性は臨床的に重要な課題である。ステロイドホルモン抵抗性の詳細な機序は不明であるが、本研究により細胞内ステロイドホルモン代謝酵素が関与していることが示唆されている。 セルラインを用いた実験では、ステロイド感受性ALL(CCRF-CEM細胞)では細胞内ステロイドホルモン増強酵素11beta-hydroxysteroid dehydrogenase 1(11b-HSD1)の発現が高い。一方、ステロイド抵抗性ALL(Ball-1、MOLT4F細胞)では細胞内ステロイドホルモン減弱酵素である11b-HSD2の発現が高いことが示された。さらにステロイド抵抗性ALLにおいて11b-HSD2の発現をsiRNAでノックダウンすると、白血病細胞はステロイド感受性へと変化した。このことから11b-HSD2はステロイド抵抗性白血病の原因と考えられた。 セルラインだけでなく臨床検体を用いた研究も進めている。ステロイド感受性ALLでは、ステロイド治療前の検体では、セルラインと同様に11b-HSD1の発現が高い。一方、ステロイド抵抗性ALLでは、治療前の検体の11b-HSD2の発現が高いことを見出している。興味深いことに、ステロイドホルモン治療を開始すると、ステロイド感受性ALLの検体では、11b-HSD1の発現が治療経過とともに上昇し、ステロイド抵抗性ALLでは11b-HSD2の発現が上昇することを確認した。つまり、ステロイド感受性ALLでは11b-HSD1が治療開始によりスイッチオンされ、ステロイド抵抗性ALLでは11b-HSD2遺伝子がスイッチオンされることが示唆された。この11b-HSD1/2の発現変化は、ALLのステロイド感受性/抵抗性の治療バイオマーカーとなりうる。さらに11b-HSD1/2の遺伝子操作により効率的なステロイド治療の開発に寄与する可能性がある。
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