研究課題/領域番号 |
22K07848
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
武藤 充 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 講師 (70404522)
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研究分担者 |
家入 里志 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (00363359)
松久保 眞 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (00528036)
大西 峻 鹿児島大学, 医歯学域鹿児島大学病院, 助教 (10614638)
山田 和歌 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (20457659)
矢野 圭輔 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (30757919)
村上 雅一 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 医員 (40825361)
加治 建 久留米大学, 医学部, 教授 (50315420)
杉田 光士郎 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 特任助教 (50781514)
春松 敏夫 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 特任助教 (70614642)
山田 耕嗣 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (80528042)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超低出生体重児 / 致死性消化管イベント / 壊死性腸炎 / 新生児消化管穿孔 / 未熟性 / 抗酸化作用 / 魚油含有脂肪乳剤 / 抗炎症作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、未熟性の高い新生児の致死的消化管イベントを回避する予防方法・治療方法の開発をめざす。主な対象疾患は、出生後に未熟腸管へ経管栄養が開始された後ほどなくして腸管壁全層破綻を生じる新生児壊死性腸炎(NEC)、および特発性消化管穿孔(FIP)とする。 本研究のポイントは、胎児期からの介入がアウトカムを変化させうるかである。早期に組織保護力に対する未熟点を補完し高めておくことで、これら致死的消化管イベントを回避し得るかどうかについて傍証を含め検証を重ねていく。ここで、介入実験ツールとして挙げるのは、カロテノイドなどの抗酸化物質および魚油による抗炎症効果の相補作用の利用である。抗酸化物質補充による強力な抗酸化ストレス力支持と、ω3系脂肪酸による抗炎症力を利用することで、腸管組織保護ならびに肝庇護、栄養管理を図る方策を創出したい。 研究草案は、①新生児期に生じる致死性消化管イベントに関する情報収集 ②新生児への抗酸化療法案の創出:出生後に補給する抗酸化物質(カロテノイドなど)の至適供給量の検討:デザイン案として、NECモデル新生仔ラットを用い、リコピンおよびアスタキサンチンなどの経腸供与によるNEC発症に及ぼす効果を検証 ③胎児期治療への応用構想:リコピンおよびアスタキサンチンなどの抗酸化物質の静脈投与方法の検討 ④抗酸化物質を母体投与する構想:リコピンおよびアスタキサンチンなどをラット母体に静脈投与した場合と経腸供与した場合との新生仔ラットNEC発症率、NEC重症度などの違いを評価 ⑤実験モデルでの周産期管理アウトカムの検証:抗酸化物質および魚油をラット母体に投与し、出生させた新生仔ラットにも同薬を継続投与し、NEC発症率、NEC重症度のなど違いを評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、未熟性の高い新生児の致死的消化管イベントを回避する予防方法・治療方法の開発を最終目標としている。今回、主な対象疾患として掲げた出生後に未熟腸管へ経管栄養が開始された後ほどなくして腸管壁全層破綻を生じる新生児壊死性腸炎(NEC)、および特発性消化管穿孔(FIP)に関し、まずは自施設現状評価、多施設情報収集、文献検索を行い実情を正確に把握、評価することが肝要と考えた。目下、その情報収集中であり、順調に進行している。 同時に、脂肪乳剤に関する情報収集も併行して行っている。現在、EPAを含む特殊脂肪乳剤は、本邦では入手と使用が限られている。魚油脂肪乳剤については、東北大学との共同研究として医師主導治験の計画を立てている。 これまでに、特殊脂肪乳剤製剤の有効保存法について検証をすすめた。魚油を含む脂肪乳剤の管理上最も大きな問題点が、脂肪乳剤自体の易酸化性にあり、開封後短期間で進行してしまう製剤劣化にある。目下、前述のような特異な患者層においては特に、魚油含有脂肪乳剤の恩恵は極めて大きいという事実は確固たるものであるが、海外から輸入して同製剤を臨床適用するにあたり、対象患者の1日使用量に比し製剤封入量(1バイアルあたりの製剤量)は10~15倍量に及ぶ。実臨床では特殊脂肪乳剤をシリンジ分注して患児らに供与するが、その保存方法についてはこれまでデータがなかった。我々は、酸化防止剤とともに分注シリンジを真空パックして気密性を保持し、冷蔵保存することによって、2週間の劣化が抑制可能で安全に安定供給出来る事をex vivoで確認した。
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今後の研究の推進方策 |
種々の検証に必要な実験モデルを安定作成することに時間と労をかける必要がある。幼若ラットを用いたNECモデル、短小腸静脈栄養管理モデルの安定化に取り組んでいる。静脈栄養管理モデルは既に安定性が保たれ開発済であるが、消化管吸収面積の減少に関わる全身へのストレスが加わった状態の短小腸静脈栄養管理モデルの安定化をはからねばならならず、今後の推進方策として取り組みつつある。対象製剤の安定保存方法も未詳であり、検証を行う必要がある。 幼若ラット短小腸静脈栄養管理モデルの安定化を図った後、EPAおよび抗酸化剤による肝細胞への酸化ストレス軽減効果をモデルで検証する。将来的には、小型動物での検証体制が確立できた後、大型動物での検証体制づくりに移行したい。ヒト新生児と解剖学的相同性、代謝生理学的類似性の最も高い新生仔ブタが適当であると考えている。鹿児島大学では、医用ミニブタを用いた研究施設があるため、新生仔ブタの飼育に応用が可能ではないかと構想している。新生仔ブタの完全静脈栄養管理(TPN)下の飼育を行うことが、第一段階の目標となる。研究代表者の海外での実験経験から、2~3週間のTPN管理において、血液生化学検査でビリルビンおよび総胆汁酸の上昇をみとめることが分かっており、総胆管カニュレーションによって実際の胆汁流出量の低下が確認でき、17日間の観察で組織学的には胆汁うっ滞性肝障害を生じることは既に解明している。さらに、小腸切除による短腸モデルの長期飼育と実験応用を図りたい。しかしながら、特に新生仔ブタはヒト新生児と相同性が高いため、実験検証中には高度な集中治療/昼夜を問わず経時的なインテンシブケアを要する。これを実現し得るマンパワーが必須であり、この点が大きな規定要素となるであろうと想定される。
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次年度使用額が生じた理由 |
製剤安定保存方法の工夫と実証、モデル動物の安定性に取り組む必要性があり、実験計画の遂行に次年度使用を要している。
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