研究課題/領域番号 |
22K07854
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
新井田 要 金沢医科大学, 総合医学研究所, 教授 (40293344)
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研究分担者 |
研 澄仁 金沢医科大学, 総合医学研究所, 講師 (40709391)
浦 大樹 金沢医科大学, 総合医学研究所, 講師 (90624958)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 結節性硬化症 / 遺伝子型・表現型相関 / モザイク変異 / ヒト末梢血由来iPS細胞 |
研究実績の概要 |
今年度は、これまでに「金沢医科大学希少疾患遺伝子診断支援事業」においてTSC遺伝子検査を実施した、結節性硬化症患者283名の遺伝子型・表現型相関を纏め論文として公表した(Togi S, Ura H, Hatanaka H, Niida Y. Genotype and Phenotype Landscape of 283 Japanese Patients with Tuberous Sclerosis Complex. Int J Mol Sci. 23:11175. https://www.mdpi.com/1422-0067/23/19/11175)。この研究成果は結節性硬化症の遺伝学的解析としては世界最大規模であり、単一民族における詳細な統計的データは他に類を見ない。本研究を通じてTSC2患者はTSC1患者に比べて知的発達症、顔面血管線維腫、腎血管筋脂肪腫の有症状率のみならず、その重症度も高いことが明らかとなった。また、TSC2のミスセンスおよびインフレ―ム欠失変異を持つ患者は、TSC2のタンパク短縮型変異を持つ患者に比べると、顔面血管線維腫、腎血管筋脂肪腫は軽症化したが、知的発達症の重症度には差が認められなかった。TSC1患者間、TSC2患者間にはそれ以外の遺伝子型・表現型相関は認められず、同一家系内の患者においても重症度にばらつきが生じることより、遺伝子変異タイプ以外の重症度修飾因子が実在することが明らかとなった。今年度はまた、JTSRIM(日本結節性硬化症学会レジストリシステム)の全体データを抽出し、現在統計解析中である。さらに、TSC2のナンセンス変異をモザイクとして持つ患者の末梢血より、正常iPS細胞と、TSC2変異をヘテロ接合性に有するiPS細胞の双方を樹立することに成功した。その遺伝子解析は先進ゲノム支援に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内における結節性硬化症患者の2つの大規模レジストリ(金沢医科大学希少疾患遺伝子診断支援事業、日本結節性硬化症学会レジストリシステム JTSRIM)を用いることにより、本邦における結節性硬化症患者のTSC遺伝子変異および症状分布の実態が明らかとなった。患者においてQOLを最も大きく左右するのは精神・神経症状(TAND, TSC-associated neuropsychiatric disorders)であるが、同一家系(遺伝子変異は同一)においても症状の出方や重症度は大きく異なっており、TSC遺伝子変異以外に症状を規定する要因があることが明瞭となった。注目すべき現象として、TSC1, TSC2遺伝子とも、データベースには登録のない多数のmRNAヴァリアントが、末梢単核球およびそこから樹立したiPS細胞で大きな個人差をもって転写されていることが示された。さらに、mRNAヴァリアントの一部はタンパクとなる可能性があるが、80%以上ははタンパク質とはならないことが予想され(ncRNA)、その生理活性は不明である。そこで、TSC2のナンセンス変異をモザイクとして持つ患者の末梢血より、正常iPS細胞と、TSC2変異をヘテロ接合性に有するiPS細胞の双方を樹立し、神経系に誘導することでこれらのmRNAヴァリアントが、TSC2変異のあるなしでどのように変化するかを、Long-read シークエンサーによるNative RNA sequencing で解析することを考案した。また同時に、同一のgenetic background でTSC2変異のあるなしで、神経分化におけるトランスクリプトームの変化をRNA-Seqとして検出することができる。この課題はR4年度先進ゲノム支援に採択され、すでにシーケンスは終了し、現在データ解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
TSC1, TSC2遺伝子とも、データベースには登録のない多数のmRNAヴァリアントが個人差をもって転写されていることは極めて重要な知見であり、今後はその生理活性の解明と、症状との相関について解析を進める。まず、一部のmRNAヴァリアントがタンパクとして発現しうるかどうかをウエスタンブロッティングで検証する。この際に、TSC遺伝子をノックアウトしたヒトiPS細胞を陰性コントロールにおき、ノイズバンドを除去する。TSC1/2ともにタンパクの様々な部位に対する抗体およびリン酸化特異的抗体が使用でき、未知のisoformの検出は可能と思われる。同定できたisoformに対して特異的なover expressionやknock outをヒト末梢血由来iPS細胞で行い、その機能解析を進める。また、未知のmRNAヴァリアントに関連して、イントロンを含めた全遺伝子領域の配列とは相関が認められなかったことより、TSC1/2遺伝子領域のメチル化をtargeted methyl-Seqにより解析する。これらにより、末梢血およびiPS細胞におけるTSC1/2 遺伝子の発現性能解析を進める。 家族発症例で、非モザイクでありながらTAND症状の重症度に差があるペアをレジストリより抽出する。両者に対し、エクソーム解析、および末梢血由来iPS細胞を樹立し、神経系に分化させた状態でトランスクリプトーム解析を行い、重症度関連遺伝子群を抽出する。トランスクリプトーム解析においてはTSC1/2遺伝子mRNAヴァリアントのレパートリーの変化も測定する。 また、TSC1/2タンパク量およびニューロペプチド量を、患者血清や培養上清中のペプチドとして定量可能かどうかを検討する。 これらの多角的な検討を通じて、結節性硬化症の神経・精神症状の重症度に関わるバイオマーカーを抽出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
R4年度のゲノム解析のうち、結節性硬化症TSC2患者モザイク症例より樹立されたiPS細胞のRNA-Seqは、先進ゲノム支援に採択されたために科研費を使用せずに済んだ。このため当初の予定よりも試薬の購入が減り、次年度に予算を持ち越すこととなった。R4年度の予算の多くは、日本結節性硬化症学会レジストリシステム JTSRIMからのデータ抽出に要している。R5年度は、ウエスタンブロッティングやゲノム解析(RNA-Seq, Targeted methyl-Seq)の試薬を購入する必要があり、R4年度より持ち越した予算は、この購入に充当させる。また、COVID-19の感染症分類の変更により移動の規制が緩和されたため、国内外での学会発表に対して旅費が必要となる。研究成果を論文化するに際しては投稿料が必要となる。
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