研究課題/領域番号 |
22K07860
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研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
福士 大輔 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 遺伝子医療研究部, 主任研究員 (90397159)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | R3HDM1 / miR-128 / 不均衡な発現 / 神経突起 / RNA結合タンパク質 / 軽度知的障害 / 自閉症様行動 |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者らが世界で初めて報告したR3HDM1欠損症の発症機序の解明を目的としている。本症例は、2番染色体の逆位によりR3HDM1がハプロ不全となるが、同遺伝子に包含されるマイクロRNAであるMIR128-1(miR-128-1)の発現量は、健常者と同等であり、逆位の影響を受けないことを明らかにした(Fukushi et al., 2021)。マウスの脳神経細胞において、miR-128は神経突起の伸長を阻害し、R3HDM1は伸長を促進すると考えられ、R3HDM1とmiR-128-1の不均衡な発現が本疾患の発症機序である可能性は高い。 今年度は以下を明らかにした。①マウス脳におけるR3HDM1の発現量は、ニューロンの形成が盛んで、脳の層構造形成に重要な時期である胎生14.5日がピークで、出生後の発現量は、ほぼ一定であった。②細胞にストレスがかかると、RNA結合タンパク質であるR3HDM1はmRNAと共にストレス顆粒に移行して、mRNAを保護する。そこで、R3HDM1(1100 aa)のどの部分がストレス顆粒への移行に重要であるのかについて、N末端側からC末端側にかけて、いくつかの領域を欠失させた変異体を作製して、ストレス顆粒への移行の有無を評価した。その結果、C末端側の584-819 aaが欠失するとストレス顆粒へ移行しなかったことから、同領域がストレス顆粒への移行に重要な領域であることが判明した。③本症例の発症機序には、R3HDM1とmiR-128-1の不均衡な発現が関与すると考えられるため、i-GONAD法によるモデルマウスの作製を進めた。R3HDM1のホモ欠失、ヘテロ欠失のマウスは既に作出済みで、今年度はmiR-128-1欠損モデルマウス(MIR128-1遺伝子の欠失)作出に成功し、系統維持を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、R3HDM1が神経突起を経由してシナプスまで運搬するmRNAを同定することを目標に研究を行った。具体的には、マウス胎仔の大脳皮質由来の培養神経細胞をセルカルチャーインサートで培養し、1)神経突起のみ、および2)それ以外の細胞体をそれぞれ回収した後に各々のRNAを抽出後RNA-seq解析を行い、神経突起に特異的なRNAの同定を行う流れである。 R3HDM1のホモ欠失マウス由来の神経細胞からはRNAを抽出できたものの、R3HDM1の野生型マウス由来の神経細胞については、培養環境のトラブルが原因と思われる細胞培養の不具合により、回収が遅れている。この不具合については改善しつつあるため、今後早急に野生型マウス由来の神経突起を回収してRNA抽出を行ったのち、RNA-Seq解析を行う。 一方、疾患モデルマウスの作出は順調であり、R3HDM1のホモ、ヘテロ欠失マウス、miR-128-1遺伝子の欠損マウス、いずれについても継代繁殖を行っており、細胞学的、組織学的解析や行動解析に向けて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
R3HDM1欠損症の発症機序を解明するためには、まずR3HDM1自体の機能を解明することが重要である。1)R3HDM1がシナプスまで運搬するmRNAを同定する。具体的には、R3HDM1の野生型マウス胎仔の大脳皮質由来の初代培養神経細胞から神経突起のみを回収後にRNAを抽出し、既に抽出済みのR3HDM1ホモ欠失マウスのRNAと共にRNA-Seqを行い、R3HDM1がシナプスへ運搬する標的mRNAを網羅的に検索する。2)標的mRNAが同定できた場合、マウスの大脳皮質あるいは海馬由来の初代培養神経細胞に対してmRNAとR3HDM1を用いてin situハイブリダイゼーションを行い、神経突起上でR3HDM1が標的mRNAと結合しているのかを解析する。3)R3HDM1の欠損マウス、miR-128-1遺伝子の欠損マウスの作出は終了し、系統維持を行っている。今後それぞれのマウスについて、①胎仔由来の初代培養神経細胞を用いた神経突起形成の差異の解析、②シナプスまで運搬するmRNAの差異の解析、③脳におけるR3HDM1の分布や発現の差異についての脳薄切切片を用いた免疫染色による解析、④R3HDM1欠損マウスに特異的な行動様式(活動性、学習・記憶、不安・うつ、注意機能、運動機能など)の解析を行う。さらに両モデルマウスを交配し、本疾患のR3HDM1とmiR-128-1の不均衡モデルマウスを作製し、上記と同様の解析を行うことでR3HDM1欠損の脳病態を明らかにし、本症例の軽度知的障害や自閉症様行動の病因を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画であったRNA-Seq解析ができなかったため、同解析に必要と思われた経費が次年度に繰り越しとなった。
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