研究課題
発生初期に出現する神経堤細胞をニワトリ胚、またはウズラ胚で焼灼除去すると心臓奇形の1つである動脈幹遺残を作出することができる。このとき冠血管も同時に異常を認めることから、リンパ管形成についても検討したところ同様に形態の異常を認めた。心臓のリンパ管形成はマクロファージとも関連していることが最近報告されているため、マクロファージの分布について検討した。神経堤マーカーのWnt1-Creマウスを利用してマウス心発生期のマクロファージ(F4/80免疫染色)分布を検討したところ、マクロファージは胎生9.5日ごろから心臓に出現し大動脈―肺動脈中隔や流出路弁の神経堤細胞近隣にマクロファージが散在していることを認めた。このマウス胚心臓(E11.5から17.5日)をFACSにかけてWnt1-lineage神経堤細胞を取り出しscRNA-seq解析したところ、一部の神経堤細胞がCsf1やCcl2などのマクロファージ誘導因子を発現していた。さらに発生期縦隔領域に寄与するCsf1r+細胞のscRNA-seq解析では、心臓や咽頭弓に分布するマクロファージの多様なサブセットとc-Kitなどを発現する未分化ミエロイド系細胞の存在が明らかとなり、神経堤細胞がCSF1/CSF1Rシグナルを介してマクロファージ分化に関与している可能性が示唆された。ニワトリ胚、またはウズラ胚心臓でもマウスと同様にマクロファージの分布を免疫染色で確認した。ニワトリ胚、またはウズラ胚の神経堤除去心の流出路ではマクロファージ(KUL01免疫染色)分布の偏りと異常分布をDay7で認めた。神経堤除去心の流出路から右室にかけて幼弱なリンパ管形成(Prox1リンパ管内皮マーカー抗体)とリンパ管伸長予定領域でのマクロファージが有意に減少し、その異常は6.5日胚で明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
鳥インフルエンザのため一時、ウズラ卵の入手が難しくなり約1か月研究を中断せざるを得なかった。現在は回復して入手可能になった。この間マウスを使った実験を実施した。
神経堤細胞がCSF1/CSF1Rシグナルを介してマクロファージ分化に関与している可能性が示唆された。今後はマクロファージが実際に脈管(冠血管とリンパ管)形成にどのように関与しているか、クロドロン酸を用いてマクロファージを減少させたときに冠血管とリンパ管がどうなるかを検討する。さらに胎仔心臓におけるマクロファージの多様なサブセットと神経細胞との位相的な相互作用をCsf1r-lineageマウス、Wt-1lineageマウス細胞のGEX-ATAC(scRNA, seq ATAC-seq)解析、in vitro実験O9-1(神経堤細胞の培養株)と発生期マクロファージに共培養、O9(造血幹細胞のフィーダー細胞)とCsf1r-lineage細胞の共培養などを実施する予定である。
今年度残額が16,365円であった。この残額は翌年度の助成金と合わせて、翌年度の消耗品購入に使用する予定である。
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