研究課題/領域番号 |
22K07886
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳田 絢加 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (60906668)
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研究分担者 |
水野 直彬 東京医科歯科大学, 高等研究院, プロジェクト研究員 (30815642)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ナイーブ型多能性幹細胞 / ヒト胚発生 / 初期胚 / 着床 |
研究実績の概要 |
ヒトの妊娠・出産率向上には、ヒト胚発生機構の解明が重要である。しかし、マウス等の実験動物に比べ、ヒト胚の入手や遺伝子操作が困難なため、ヒト胚発生機構の多くは未解明である。特に、子宮内の微小空間で進行する着床後の胚発生における分子機構研究は大きく遅れている。本研究では、多能性幹細胞から作製したブラストイド(着床前の胚である胚盤胞を模倣した再構成胚)を用い、試験管内ヒト着床後胚発生モデルの構築を目指している。研究1年目は、現在のブラストイドが抱える課題の1つである、in vitroでの発生/分化進行に伴いエピブラストあるいは原始内胚葉系列の細胞が消失するという問題の解決に取り組んだ。この2細胞系列の消失は、試験管内で擬似着床する前のブラストイドに、十分な数のエピブラスト・原始内胚葉が存在していないことに起因するのではないかと仮説を立て、分化誘導の各ステージごとに、エピブラストと原始内胚葉の細胞数を定量した。その結果、ブラストイド間、および分化誘導時期における、各細胞系列の割合の揺らぎが明らかになった。また、ブラストイドへの誘導過程における、各細胞系列への分化開始時期、成熟・増殖時期の詳細も明らかになった。これらの知見をもとに、エピブラスト・原始内胚葉への分化・増殖促進候補サイトカイン・阻害剤(他の動物種での報告やヒト胚の遺伝子発現解析データーをもとに選抜)を分化誘導時に添加し、その影響をホールマウント免疫染色による各細胞系列の定量化により調べた。その結果、エピブラスト・原始内胚葉の増殖を促進する因子を複数見つけることができた。エピブラスト・原始内胚葉は、将来胎児あるは卵黄嚢へと分化する胚発生に重要な細胞系列である。これらの細胞系列の増殖・維持に有効な因子の発見は、ブラストイドを着床後様胚へと分化させる次の研究ステップにとって有益な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年4月にポジションを得たことにより国内での研究機関異動が生じ、本研究の遂行に必要なヒトES細胞の使用に伴う倫理申請等の手続きおよび、研究設備、実験環境の立ち上げが必要であった。しかし、多くのサポートのおかげで、ナイーブ型ヒトES細胞の導入、安定的な培養、ブラストイドへの既存の分化誘導方法の再現など、本研究遂行に必要な実験基盤の立ち上げが新しい研究環境下でスムーズにできた。そのことにより、当初予定していた条件検討に取り掛かることができ、ブラストイド誘導法の改良にとって有望なサイトカイン・阻害剤の絞り込みができているため。
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今後の研究の推進方策 |
正常な胚を模倣したブラストイドを作成するためには、単にエピブラスト・原始内胚葉の数を増やせば良いわけではない。本来の胚盤胞を構成する3つの細胞系列(エピブラスト、原始内胚葉、栄養外胚葉)が適切な割合および形体を保ち共在することが必要である。そこで、2022年度に発見した有望なサイトカイン・阻害剤を、原始内胚葉以外の細胞系列に対する影響を各細胞系列に対するマーカー遺伝子に対する免疫染色および、細胞数の定量により評価し、添加濃度の最適化、有望な候補因子の更なる絞り込みを行う。その後、最適化したブラストイド誘導法を用い、本研究の第二課題である本来の胚の立体構造を保った着床後胚様への分化誘導に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始年である本年に所属先の異動が生じ、研究遂行に必要な倫理・申請手続き、および研究環境のセットアップが必要であった。そのため実験開始までに時間を要したこと、新しい環境に既にあった機器・物品の利用等により当初予定していた額との差が生じた。今年度で整えた研究環境を十二分に活かし、翌年度は更なる研究の遂行に励む。
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