研究課題
小児の日常診療では血中ケトン体が上昇するケトーシスに遭遇する機会は多く、その中には時に重篤な代謝発作をきたしうるケトン体代謝異常症が潜んでいる。その確定診断のためには遺伝子解析や酵素活性測定がもちろん重要ではあるが、従来型の検査法では診断が不可能であるケトン体代謝異常症の未診断症例は多く存在している。それらの症例に対し、本研究では網羅的遺伝子解析やマルチオミックス解析を組み合わせた診断アプローチ法を新規開発し、従来の検査法と連携して「ケトン体代謝異常症に対する包括的診断・解析システムの構築」をめざしている。令和5年度は先行研究に続いて、全国からケトン体代謝異常症が疑われる症例の相談や遺伝子解析依頼を継続して受け付け、AMED研究班と連携して遺伝子パネル解析による網羅的な遺伝子解析を累計38例(令和4年度 19例、令和5年度 19例)に実施し、一部の症例で確定診断につなげた。遺伝子パネル解析でバリアントが未同定である場合や、1アレルにしかバリアントがみつからなかった例に関しては、RNAシークエンスを用いたトランスクリプトーム解析を組み合わせることで、DNAのみによる従来の遺伝子検査では同定が困難であったスプライス異常等の解析も可能となっている。また、βケトチオラーゼ欠損症やSCOT欠損症が疑われる症例に対しては、リンパ球や皮膚線維芽細胞を用いた酵素活性測定による機能解析を6例実施し、酵素タンパクとしての機能評価を実施した。さらに、βケトチオラーゼ欠損症やSCOT欠損症でみつかった新規バリアントに関しては、細胞発現系を用いた機能解析の追加で病態解析を進めた。これらの多角的なアプローチでケトン体代謝異常症に対する病態解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度:1. ケトン体代謝異常症に対する従来の診断システムの維持:申請者の教室では全国からケトン体代謝異常症の症例相談や遺伝子解析依頼を継続して請け負ってきているが、 ケトン体代謝異常症に対する遺伝子パネルを用いた解析(AMED研究班と連携)により、国内のケトン体代謝異常症に対する従来の診断システムの窓口としての役割を維持・継続している。令和5年度は19例の解析を受け付けた。2. 未解決事例の網羅的遺伝子解析:ケトン体代謝異常症の存在が疑われる未診断例に対する網羅的遺伝子解析を実施することで、未解決事例の確定診断を目指した。令和5年度は引き続き次世代シークエンサーによる遺伝子パネル解析をメインに、それらの中の未解決例をまとめており、今後、マルチオミックス解析を追加していく予定である。3. in vitro解析による評価の追加:申請者の教室ではβケトチオラーゼ欠損症やSCOT欠損症に関しては患児の線維芽細胞やリンパ球を用いたイムノブロッティングや酵素活性測定法が以前から確立している。また、HMG-CoA合成酵素欠損症に関しては当教室で大腸菌を用いたタンパク精製やアセトアセチルCoAを用いた吸光度変化測定による活性測定系が確立している。これらの手法を用いた解析を組み合わせて、症例の病態解析を進めることができた。4. マルチオミックス解析:これまでの未解決事例や新規の診断例に対して、マルチオミックス解析を試みている。令和5年度は主にRNAシークエンスによるトランスクリプトーム解析を実施し、DNAのみによる従来の遺伝子解析では評価が困難なケトン体代謝異常症例に対しての有効性を確かめ、症例数を積み重ねることができた。
令和6年度:これまでのケトン体代謝異常症に対する診断システムの維持をしながら、遺伝子解析やin vitro解析による評価を継続し、症例数を蓄積していく。同時に、マルチオミックス解析においてはRNAシークエンスやプロテオーム解析の実施例を増やすことにより、DNAの解析だけでは同定が困難なケトン体代謝異常症の確定診断を追求していく予定である。さらに、患者レジストリー、未診断症例の全国調査も準備し、確定診断例に関してはAMED研究班で構築中の難病プラットフォームを用いた先天代謝異常症レジストリシステムに遺伝子情報と一緒に登録し、その後も経年的なフォローを行って情報を蓄積していくことで、個別疾患における遺伝子型と表現型の相関やより詳細な自然歴の解明につなげていくことを目指す。また、国内に多く存在していると想定されるケトン体代謝異常症の未診断症例の診断のため、申請者が参加している先天代謝異常症の複数の研究班を通じて、これまでに引き続き、先天代謝異常症専門家への呼びかけを実施する。また、全国調査の実施も予定していく。
主な理由としては、新型コロナウイルスの影響がまだ残っており、国内・国外とも学会・出張がWebによる開催形式のものが多く、旅費の残余が生じたことが挙げられる。また、令和5年度に関しては人件費・謝金が発生する研究においては予算を使用せずに進めることができた。しかし、引き続き令和6年度に多くのin vitroの実験が必要となっているため、解析試薬、人件費等は次年度使用額として計上した。
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