研究課題
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、ヒトヘルペスウイルスの一種であり、胎児における先天感染症あるいは易感染性宿主における日和見感染症などを引き起こす病原体である。先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症では、精神発達遅滞や感音性難聴などの神経・感覚器障害を含むさまざまな臓器障害を合併し、先天感染児の発育・成長や予後に重大な影響をおよぼす場合がある。HCMVは神経系細胞を含めたさまざまな種類のヒト細胞に感染し、潜伏感染や溶解感染といった感染様式をとりながら、宿主の細胞・臓器機能に影響をおよぼすと考えられる。本研究では、先天性CMV感染症における神経・感覚器障害の発症メカニズムの解明とHCMV病原性の新たな抑制法確立を目指す。そのために、HCMVの増殖や病原性発現に深く関わる細胞因子を同定し、細胞因子とウイルスとの相互作用を介したHCMV増殖・病原性発現機序の解明やその制御法確立につなげるための研究を遂行する。これまでの研究で、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)発現ライブラリーを活用して、HCMVの増殖や病原性発現を抑制する可能性のあるshRNAを複数同定した。その後、同定されたshRNAについてその作用機序を明らかにするために、複数のshRNAについてHCMV増殖に対する抑制効果を解析した。その結果、それぞれのshRNAは、HCMV増殖過程の異なる時期に作用すること、shRNAが標的とする細胞因子はHCMV増殖や病原性発現の異なるマシナリーに関与している可能性があることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)の増殖機序あるいは病原性発現機序に関連すると思われるウイルス・宿主間相互作用について、相互作用に関わる細胞因子の同定を進めることができた。また、同定されたウイルス・宿主間相互作用がHCMV感染現象においてどのような役割を担っているのか生化学的解析を進めた結果、新たなデータを蓄積することができた。
これまでに、HCMVの増殖過程および病原性発現に関与するウイルス・宿主間相互作用に関わる細胞因子を同定した。これまでに得られた知見を発展させるために、細胞因子を介したHCMV増殖および病原性発現機序をさらに詳細に明らかにすることを目指し解析を進める予定である。
実験に用いる試薬・消耗品類については、今年度は効率的に使用することができたこともあり、予定額よりも低く抑えることができた。来年度は、これまでに得られた成果をさらに発展させるために新たな試薬・消耗品類の購入を予定している。引き続き効率的使用を図りながら研究を進める予定である。
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International Journal of Molecular Sciences
巻: 23 ページ: 9799
10.3390/ijms23179799