研究課題
脳性麻痺に対する新規治療法として本学医学部附属病院で実施されている自家臍帯血移植治療の治癒メカニズムを明らかにするため、新生仔脳虚血再灌流障害モデルを改良した独自の脳性麻痺モデルを開発し解析を行ってきた。生後9日齢の免疫不全マウスを用いてモデルマウスを作製し、3週間後にヒト臍帯血細胞を静脈投与すると、内在性の神経幹細胞が賦活化し、分化した神経前駆細胞は増殖しながら損傷部位に誘導されることが明らかとなった。移植細胞の脳実質内への浸潤は、神経幹/前駆細胞の賦活化による脳障害の改善に向けた最初の重要なステップと考えられる。血管に投与された臍帯血細胞が血液脳関門を超えて、どのように脳実質内に浸潤するのかを調べることにした。血液脳関門の破綻の状態を調べるため、脳損傷24時間と3週間後の脳性麻痺モデルマウスの血管にエバンスブルーを投与し、脳実質内への漏出量を定量した。脳損傷24時間の急性期では、障害側で顕著な漏出が観察されたが、3週間後の慢性期においては、漏出は観察されるもののその程度は低く、正常側と比較して有為な差は認められなかった。次に、血液脳関門の形態を解析するため、ペリサイトとアストロサイトの免疫染色を行った。ペリサイトのマーカーとしてPDGFRβを用いた。脳損傷24時間後の障害部位付近にはペリサイトのシグナルは観察されなかったが、3週間後には観察されるようになった。さらに、脳血管を取り囲むアストロサイトの足突起のマーカーであるアクアポリン4と血管を可視化できる蛍光標識トマトレクチンを用いて、脳切片上でそれらの局在を調べた。その結果、脳損傷3週間後においても共局在は観察されず、血管は足突起に覆われない状態で存在していた。これらのことから、臍帯血細胞の移植時期である脳損傷3週間後の慢性期における血液脳関門は急性期から回復しつつあるものの、その破綻は続いていることが明らかとなった。
3: やや遅れている
血液脳関門の形態や機能を解析するため、ペリサイトやアストロサイトの他に、基底膜(コラーゲンⅣ)や血管内皮細胞のタイトジャンクション(claudin-5、occludin)の免疫染色を進めているが、条件検討中であり結果が得られていない。また、脳性麻痺モデルマウス作製や臍帯血細胞採取が計画よりも少なかったため、臍帯血細胞移植後の血液脳関門の形態も解析するまでには至らなかった。
今年度結果が得られなかったタイトジャンクションや基底膜などについて、免疫染色やwestern blot法を用いて調べる。さらに、造影剤を用いたMRIによる漏出観察、電子顕微鏡による血液脳関門の構造観察も行い、急性期と慢性期における血液脳関門の透過性や形態、機能の違いを見出す。また、脳性麻痺モデルマウスに臍帯血細胞を移植した後の血液脳関門の評価や、移植細胞を標識(PKH26や蛍光分子など)し、脳実質内に浸潤している細胞を観察することで、脳内での局在や浸潤している細胞について解析する。
脳性麻痺モデルマウスへの臍帯血投与実験が計画通りに進まず、臍帯血細胞の培養液や培養器具などの購入を翌年度に持ち越したため、その購入費とする。
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