研究課題
HIVEP2(Schnurri-2)遺伝子の常染色体優性変異型変異は、中重度の知的障害を伴うMRD43 Mental retardation, autosomal dominant 43)の発症に関わることが10年程前に明らかになった。これまでに30近くの症例報告が蓄積している。本研究ではMRD43の発症に環境要因が影響しうるのか調べることを目的として、モデルマウスに対する社会的ストレスの影響を検討している。昨年度は離乳後の週齢のモデルマウスに対して隔離ストレスを長期間与え、MRD43の関連症状の一つである多動性の顕在化がストレスにより促進されることを明らかにした。一方、もう一つの関連症状である衝動性は、ストレスによる影響は見られず、コントロール条件の集団飼育したモデルマウスにおいても見られた。このことからMRD43の症状には、環境要因の影響を受けるものと受けないものが併存していることが分かった。今年度はマウスの発達状態によってストレスに対する感受性に変化がみられるかどうかについて検討を行った。ヤングアダルト期に到達したモデルマウスに対し昨年と同様に隔離ストレスを与えて調べたところ、離乳後にストレスを与えた時の結果と変化はなかった。この結果からMRD43に対する環境要因の影響は幼少期に限らないことが明らかになり、MRD43の療育における示唆が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究ではMRD43の症状発症に対する環境要因の影響をモデルマウスを用いて検討するものであるが、これまでに社会的ストレスとして隔離ストレスを用いた系で実験を行ってきた。昨年度はこの環境要因により影響を受けるMRD43の関連症状を明らかにしたが、この結果を基に本年度に行った実験によってこの環境要因の影響と体の発達段階の間にはっきりとした関連性は見られないことが分かった。この結果はMRD43の療育における示唆となり得る。
これまでに社会ストレスとして隔離ストレスによる影響を複数の発達段階で検討してきたが、今後は異なるストレスに対する影響の検討を考えている。具体的には新生児期における社会的ストレスに相当する母性剥奪の影響について検討を行う予定である。ストレスの違いによりMRD43関連症状の発症に変化があるか調べることでMRD43への環境要因影響をより具体的に明らかにしたい。
本年度は研究助成金の使用はほぼ計画通りに行ったが、マウスの飼育費用に関して想定より僅かに少なく済んだため、若干の使用残額が生じた。来年度の飼育費に追加して使用する計画である。
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eLife
巻: 12 ページ: -
10.7554/eLife.89376.3