研究課題
2022年度は、炎症性腸疾患のモデルマウスであるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性腸炎マウスにおける不死化歯髄幹細胞培養上清(SHED-CM)の治療効果について検討を行った。① DSS腸炎マウスでの治療効果:C57BL/6マウスに3%DSSを1週間自由飲水させ、2日おきに計5回SHED-CMまたはコントロール培地を腹腔内投与すると、コントロール培地に比べ、SHED-CM投与により体重減少の回復が有意に早かった。10日後、腸組織の全長を比べると、SHED-CM投与により腸の長さが短くなり、粘膜固有層リンパ球のCellularityや細胞内サイトカインの発現解析により、特に抑制性の骨髄由来抑制細胞(MDSC)の割合が増加傾向にあった。次に、腸組織の細胞溶解液を調製し、腸組織の上皮バリアー機能を担う接着分子デスモグレイン2(DSG2)の発現をウエスタンブロットで調べると、SHED-CM投与により増加傾向にあった。② SHED-CMのサイトカイン網羅解析:SHED-CM中のサイトカイン量をRayBio 社のHuman Cytokine Antibody Arrayを用いて網羅的に定性発現解析を行うと、RANTES、Angiogenin、MMP-10、Osteoprotegerin、TIMP-2、HGF、MMP-1、TIMP-1という順で多かった。そこで、腸炎誘導への関与が報告されているマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)およびその阻害剤(TIMP)の腸での発現増強をRT-qPCR解析により調べると、SHED-CMとコントロール培地投与で有意な差は見られなかったが、発現の差は見られなくても、SHED-CM中のTIMP-1/2による腸粘膜でのMMP活性の抑制効果があるのではと、現在検討を続けている。
2: おおむね順調に進展している
不死化歯髄幹細胞培養上清(SHED-CM)のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性腸炎マウスへの治療効果が明らかになってきたので、ほぼ計画の予定通り進んでいる。
2023年度:DSS腸炎抑制の作用機序の解明① ヒト腸管上皮モデルを用いた腸管修復効果:腸管バリアのin vitroモデルとしてヒト結腸癌由来細胞CaCo2をSHED-CM有無でTNF-aで刺激し、DSG2の発現、経上皮電気抵抗の測定、透過した蛍光標識デキストランの蛍光強度を測定する。上清中の分子の関与を複数の中和抗体を用いて検討する。② 免疫抑制の関与:粘膜固有層リンパ球で細胞分布や免疫抑制に関わる制御性T細胞、IL-10産生制御性T細胞Tr1、骨髄由来抑制細胞、M1/M2マクロファージの比率についてもFACS解析を行うと骨髄由来抑制細胞(MDSC)が増加傾向にあった。そこで、この点を確認するとともに、IL-10遺伝子欠損マウスを用いてDSS腸炎を誘導し、野生型マウスと比較しSHED-CMを投与してもその腸炎抑制効果が認められるか検討する。2024年度:SHEDのプレコンディショニングによる治療効果の増強① SHEDのプレコンディショニング:間葉系幹細胞は、種々の刺激で処理すると、その培養上清中に産生されるサイトカイン発現が増減する(プレコンディショニング)。そこで、SHEDをIFN-gなどの炎症関連サイトカインや、LPSなどのToll様受容体リガンドで24時間刺激した後、PBSで洗浄後さらに培養した上清を、TNF-aで刺激したCaCo2に加えバリアー機能解析とサイトカインやエクシシームなどの分子の関与を検討する。② DSS腸炎モデルマウスへの効果:①の培養上清のDSS腸炎への治療効果と関与する分子についても検討する。
使用金額の端数を合わせることができなかったため、次年度使用が生じた。残金は、次年度の消耗品代に加えて使用する計画である。
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