研究課題/領域番号 |
22K08058
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
永石 歓和 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30544118)
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研究分担者 |
仲瀬 裕志 札幌医科大学, 医学部, 教授 (60362498)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クローン病 / 間葉系幹細胞 / 細胞ファイバ |
研究実績の概要 |
クローン病には難治性痔瘻の合併が多い。既存治療に抵抗性の難治例が多いことから、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells, 以下MSC)を用いた新たな局所細胞療法を開発することを目的とした。 MSCは、骨髄や臍帯・胎盤、脂肪組織、歯髄等から単離培養される体性幹細胞で、再生医療において実用化が進む細胞である。MSCはサイトカインや増殖因子等の液性因子を産生・分泌して免疫制御能や組織修復再生能を発揮する。 痔瘻局所病変部は便汁や腸内細菌、活性化した炎症細胞等が存在することから、MSCを細胞単独で直接投与した場合にMSCに対する細胞障害が大きく、十分な細胞治療効果を発揮しないことが想定される。一方でMSCは、スフェロイド形成することにより細胞機能が向上することが知られている。 そこで、本研究では細胞ファイバ技術に着目した。細胞ファイバは、直径数百マイクロメートルのゲルチューブに内包された細胞と細胞外マトリクスから成る構造体である。 本研究では、MSCをハイドロゲルに封入しヒモ状にカプセル化した「MSC-fiber」を作製した。MSCはファイバ内部で自律的にスフェロイドを形成し、長期に生存した。また、内部のMSCスフェロイドに由来する多彩な液性因子が外殻のゲルを通過してファイバの外に放出された。抗炎症作用を発揮する因子については、従来の2次元培養の培養上清よりも高濃度で分泌された。またファイバの培養上清は、活性化マクロファージの形質転換やROSの産生を制御した。さらにこのMSC-fiberをTNBS誘導急性腸炎モデルの腸管内の潰瘍病変に管腔内投与したところ、対照群と比較して治療群において腸炎の重症化が抑制された。MSC-fiberによる痔瘻を模したモデルでの腸炎抑制効果を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファイバの作製条件の最適化を行い、細胞密度や作製条件等が概ね確立することができた。また、in vitroにおける液性因子の解析、およびこれらの液性因子による活性化マクロファージの機能的変化に関する解析を予定通り行った。また、in vivoにおける痔瘻病変を模倣したモデルの作製に課題があったが、最終的にTNBS腸炎ラットで安定的なモデル作製が可能となり、細胞治療の効果が推定されるところまで研究が進捗した。従って、概ね計画通りに進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
MSC-fiberの機能的特性解析として、ファイバ内の細胞の生存活性や代謝活性、エピジェネティックな形質変化をフラックスアナライザ、メタボローム解析等により詳細に解析する。またファイバ内のMSCに発現する各種機能的因子の網羅的解析および特異的因子の核酸やタンパク発現、エクソソームやmi-RNAの解析を進める。さらに、MSC-fiber由来の分泌因子による活性化T細胞の制御効果や腸管上皮に対する保護作用について解析することで、MSC-fiberの機能的解析を進める。 In vivoにおいては、MSC-fiberの投与ルートの最適化、生体内におけるファイバ内部の細胞の動態や細胞生存率、移植拒絶について解析し、さらにファイバ化による細胞治療の有効性機序の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞ファイバ作製の最適化、およびin vitroでの解析研究に重点をおいたため、動物実験の回数が当初の予定よりも減少したことから、高額なモデル動物の購入費用が縮減した。また、代謝解析やRNA-seq等の各種受託解析を次年度に移行したため、解析費用が減少し、次年度使用額が生じた。 次年度は、細胞種の変更や培養条件の最適化を計画するに伴い、複数種の高価な無血清培地の購入や細胞ファイバの機能的評価を目的とした分泌顆粒の解析や治療効果に連結するmiRNAの網羅的解析、網羅的発現解析、動物モデルの作製や改変等に次年度分の研究費を使用予定である。
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