研究課題
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、慢性進行性の胆汁鬱滞性肝疾患であり、胆管上皮細胞に対する自己免疫反応の関与が示唆されている一方で、その発症・進展機序は未だ不明なままである。疾患の罹りやすさに関連する遺伝子を網羅的に探索するゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いて、申請者らの研究グループはこれまでに、ヒト白血球抗原遺伝子群(HLA)をはじめとする多数の日本人PBC感受性遺伝子領域を同定するとともに(Hitomi Y, et al. 2019など)、英国などの研究グループとの国際共同研究によるGWASメタ解析を実施してきた(Cordell HJ, et al. 2021)。令和4年度は、国際GWASメタ解析によって新たに同定されたアジア人特有のPBC感受性遺伝子領域であるCD28を対象として、発症に直接寄与する機能的バリアント(causal variant)の同定、および、PBC発症機序の解明を目的として、以下に示すin silico解析・in vitro機能解析を実施した。まず、CD28近傍には、PBC感受性との非常に強い関連を示すバリアントが多数存在していたが、CD28やその他の遺伝子の発現量との有意な相関を示すバリアントは、存在しなかった。その一方で、スプライシング制御モチーフにPBC感受性との非常に強い関連を示すrs2013278が位置しており、CD28には3種類の選択的スプライシングアイソフォームがmRNAレベルで発現することが認められた。全長型CD28以外の二つのCD28アイソフォームは、タンパク発現やリガンド結合能の無い機能喪失型アイソフォームであった。また、CRISPR/Cas9を利用するゲノム編集を用いて、rs2013278がCD28の選択的スプライシングを直接制御することを発見し、CD28に由来するPBC発症機序が解明された。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画通り、国際GWASメタ解析にて同定されたPBC感受性遺伝子の一部について、発症に寄与する機能的なバリアント(causal variant)の候補の選定が完了するとともに、causal variantの同定・そのバリアントに起因する発症分子メカニズムの解明に、それぞれ至ったため。今年度の成果により、現在までに同定されている日本人および東アジア人におけるPBC感受性遺伝子領域のすべてに対する解析が完了した。
国際GWASメタ解析にて同定されたPBC感受性遺伝子について、発症に寄与する機能的なバリアント(causal variant)の候補からの絞込み、および、バリアントに起因する発症分子メカニズムの解明をさらに推進するために、以下の解析を実施する。1.すべてのPBC感受性遺伝子を対象としたin vitroの機能解析、特に、CRISPR/Cas9やその他のゲノム編集技術を利用するゲノム編集を駆使し、よりcausal variantに特化した解析を実施する。2.バリアントによる遺伝子発現への影響を検討するためのeQTL解析を、複数の信頼できるデータベースを用いて実施する。3.血清や末梢血単核球を用いた発現解析を実施する。
端数が残ったため。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
Genes
巻: 14 ページ: 405
10.3390/genes14020405
Hum Genomics
巻: 16 ページ: 46
10.1186/s40246-022-00419-7