研究課題
Pin1 (peptidyl-prolyl cis-trans isomerase NIMA-interacting 1)は、標的タンパク質の構造変化を行うことにより細胞内シグナル経路の制御および標的タンパク質の安定化などの重要な役割を担っている。既往の研究において、マウスのPin1を欠損させるとNASH(non-alcoholic steatohepatitis)の症状が顕著に抑えられることから、Pin1がNASHの病状進行に関わっていることは明らかである。Pin1のNASH患者への影響を解析するために、本研究では、NASH患者の肝生検を用い、Pin1の免疫染色を行った。その結果、NASH患者では肝移植ドナーと比べて、Pin1発現量が顕著に高く、またその局在性は核に見られることが明らかとなった。さらに核でのPin1の発現率と肝機能低下の指標とを比較したところ、FIB-4 index、 AST、白血球数には相関は見られなかったが、ALTのみPin1発現率との相関性がみられた。また、肝癌培養細胞を用い、パルミチン酸刺激後のPin1の発現を蛍光染色で確認したところ、やはり核で強く発現していた。一方、siRNAによってPin1の発現を抑えたところ、パルミチン酸による脂肪滴の蓄積が抑えられた。以上のことから本研究では、Pin1の発現量増加がNASHに深く関わっていることおよびその局在性が核であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
NASHの病状の進行にPin1の発現が深く関わっていることは示唆されていたが、そのメカニズムについては、解明されていない点が多かった。本研究では、ヒト肝生検サンプルにおいて、NASH発症時にPin1の発現量が顕著に増加し、またその局在性が核にみられることを明らかにした。現時点で、この核移行はNASH特異的にみられている現象の可能性が高い。そのため、当初の目的である臨床応用への展開という点において、Pin1の発現パターンがNASHの病状進行の診断に適用できる可能性が示唆された。同様に、この核移行はHuh7やHepG2などの培養細胞においてもみられ、逆に、Pin1の発現を抑えると、脂肪滴の蓄積も抑えられることから、細胞レベルでもPin1がNASHの進行に深く関わっていることが示唆された。以上のことから、本研究は順調に進捗しているといえる。
NASH発症時にPin1が核へ移行することが明らかとなったため、今後はその移行メカニズムについて明らかにしたい。さらに炎症から線維化に至るプロセスに関与するクッパー細胞、星細胞を用いて、脂肪酸刺激後に時間毎にPin1の発現を解析することで、それぞれにおけるPin1の機能的役割とNASH発症への関与を解明する。さらにNASH患者からの肝生検サンプルと臨床データから、脂肪蓄積や炎症、線維化、肝機能低下などと肝Pin1量及び細胞内分布 (核、細胞質の分布割合)との関係性を検討する。
免疫染色において当初想定していた条件検討が予想よりも順調に進んだため。次年度はさらにNASH患者からの肝生検サンプルと臨床データから、脂肪蓄積や炎症、線維化、肝機能低下などと肝Pin1量及び細胞内分布 (核、細胞質の分布割合)との関係性を検討するが、当初の計画よりも肝生検サンプル数増やし、さらに精度の高い解析を行う。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
FRONTIERS IN CELL AND DEVELOPMENTAL BIOLOGY
巻: 10 ページ: 11-18
10.3389/fcell.2022.1005325
JOURNAL OF DERMATOLOGY
巻: - ページ: 11-30
10.1111/1346-8138.16633
Cancer medicine
巻: 12 ページ: 8464-8475
10.1002/cam4.5587