研究課題/領域番号 |
22K08079
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤森 尚 九州大学, 大学病院, 助教 (60808137)
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研究分担者 |
竹野 歩 九州大学, 大学病院, 助教 (10812456)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 膵神経内分泌腫瘍 / 多施設共同研究 / 人工知能 |
研究実績の概要 |
膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic neuroendocrine neoplasm; PanNEN)は病態や臨床経過が非常に多様性に富む不均一な悪性腫瘍であるが、希少疾患であるため単一施設での研究には限界がある。本研究では、多施設共同研究により広域から多数のPanNENサンプルを収集し、人工知能(AI:Artificial Intelligence)とシングルセル解析を応用したPanNENの病態解明を最終目標としている。 初年度である令和4年度は、多施設共同研究の立ち上げとサンプル収集、更にそれらを用いた質の高いwebデータベース構築を最優先課題とした。総計22施設が本研究に参加することとなり、全施設の倫理委員会で承認された。データ収集に際して、当院ARO次世代センター協力を得て、webデータベースシステム(REDCap)を構築した。REDCapにはオンライン上でリアルタイムにデータ入力することができ、入力履歴も可視化されることから、管理者側からのクエリ発出やデータクリーニングも容易となる特徴がある。参加22施設から、総計599例のPanNEN切除例が登録され、臨床病理学的因子を中心に解析することで、PanNEN切除例の全体像やグレード毎の再発率などの疫学データが得られた。NET G1, G2, G3とグレードが上がると共に再発率が上昇するという、既報と同様のデータが得られ、本データベースの信頼性が担保された。本邦における多施設かつ多数例のPanNENデータベースは報告が少なく、貴重なデータが集積されたと言える。 令和4年度は、上記のデータベースを用いた疫学研究結果を中心に、国内学会(村上正俊、藤森尚ら. 第119回日本消化器病学会九州支部例会)及び国際学会(Fujimori N, et al. IAP and JPS 2022)にて研究成果を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
九州地区を中心とした全22施設(大学病院:9、地域基幹病院:13)が研究に参加し、全施設で研究計画について承認された。ARO次世代センターの協力を得てwebデータベースシステムであるREDCapを用いて、データベースを構築した。具体的には、各施設からPanNEN切除例に関する多数の臨床病理学的因子をREDCap上でオンライン入力し、事務局から適宜クエリを発出して、データクリーニングを進めた。PanNEN切除例の全体像の把握、臨床・病理学的因子を中心とした再発予測因子の同定を目的に疫学的な評価を行った。また、PanNEN切除症例を用いたシングルセル解析の予備実験を同時並行で進めた。 初年度の研究成果として、参加22施設より総計599例のPanNEN切除症例が登録された。重複症例やデータが不十分な症例を除き、573例の根治切除例を解析対象とした。腫瘍グレードについて、過去の症例も病理データを改めて見直し、WHO 2019分類(NET G1, G2, G3, NEC)に基づき評価した。結果としてNET G1が60%強と最多であり、NET G1とNET G2で全体の約90%(520/573)を占めていた。NET G3及びNECの切除例はそれぞれ9例(1.5%)のみであり、これら進行例の多くは切除不能となることが想定された。PanNENの治癒切除後再発率は、NET G1、NET G2、NET G3、NECにおいて、それぞれ7.6%、33.7%、77.8%、77.8%であり、グレードが上がるにつれて再発率が上昇した。Ki-67 indexに基づいた上記のグレード分類は現在最も信頼のおける予後因子とされている。本研究で構築されたコホートが実臨床のreal-world dataを反映している証左と言えるデータであり、今後は本データベースを用いて、様々な解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の疫学調査で明らかになったこととして、NET G3、NECの再発率は非常に高いことが挙げられる。すなわちPanNET G3、NEC症例はほぼ再発するという事実が明らかとなり、臨床的に有用な再発予測モデルの構築には、これらを除外することが望ましい。また、比較的均一な患者集団であるPanNET G1やG2症例の内で、どのような症例が再発高リスクとなるかを明らかにすることが臨床的意義は大きいと考えられる。また、PanNENには機能性腫瘍と非機能性腫瘍が存在するが、機能性腫瘍はその産生するホルモンにより予後が大きく異なることが知られている。上記理由から、今後のPanNEN術後再発予測モデル構築にはNET G1およびG2症例に対象を絞ることとした。 次年度以降の計画として、Q-P NET registryに登録された症例からNET G1及びG2症例を抽出する。実臨床で重要となる、複数の臨床・病理学的因子を選択し、多変量・単変量解析からNET術後再発に関連する因子を同定する(従来のCoxモデル)。本研究は、後方視的観察研究であることから、切除された時期によって観察期間が異なる欠点がある。そのため、AIによる再発予測には、時間軸を考慮したRandom survival forest (RSF)を用いる。従来のCoxモデルと比較することで、AIによる再発予測能を評価する。 切除検体を用いたシングルセル解析については、次年度以降も継続するが、検体採取や適切なシングルセル化に多くの課題があることが判明した。シングルセル解析が困難な場合は、切除標本を用いた免疫染色による再発予測や、AIによる再発予測モデル構築を主軸として、最終年度までの論文化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はwebデータベースシステムの構築を主目的としたため、データベースの初期作成及び維持費用を直接経費として支出した。更にシングルセル解析の予備実験に関する試薬代を計上した。シングルセル解析については、更なる条件検討の上で、本実験を進める必要があり、次年度以降に展開する方が有益と判断した。 次年度以降は国内学会及び海外学会での発表、更には疫学データの論文化も計画しており、旅費を含めた諸費用と論文投稿費用などが発生する見込みである。
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