研究課題/領域番号 |
22K08091
|
研究機関 | 地方独立行政法人東京都立病院機構東京都立駒込病院(臨床研究室) |
研究代表者 |
木村 公則 地方独立行政法人東京都立病院機構東京都立駒込病院(臨床研究室), 肝臓内科, 部長 (70397339)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 肝細胞癌 / IL-18 / PDL1抗体 / メモリT細胞 / 治療薬 |
研究実績の概要 |
肝細胞がんは、予後不良の難治性がんの一つであり、年間死亡者数は約3万人で推移している。進行肝細胞がんに対しては、化学療法が選択されるが、治療効果は約20-30%程度である。今回、肝細胞がんに対する新規の治療法として、IL-2+IL-18+抗PD-L1抗体併用投与を提案する。MDR2KOマウス由来肝細胞がんに対して、IL-2+IL-18+抗PD-L1抗体を週2回4週間投与したところ著明な腫瘍縮小効果を認めた。この抗腫瘍効果は、IL-2+抗PD-L1抗体あるいはIL-18+抗PD-L1抗体の併用投与では認められず、3剤併用投与が必須であった。この結果から、本研究の目的は、IL-2+IL-18+抗PD-L1抗体併用投与の有効性を確認し、担がんマウスに対する宿主の免疫応答を解析し、2剤併用投与との比較を行うことで重要な宿主因子の同定や抗腫瘍免疫のメカニズム解析を行い、新たな肝細胞がんに対する治療法を開発することである。最近の固形腫瘍に対する治療薬の主流は免疫チェックポイント阻害剤であり、腫瘍に対して免疫寛容になっている宿主の免疫反応特に、疲弊した腫瘍特異的CD8陽性T細胞をいかに機能回復させるかが重要である。さらに、CD8陽性T細胞のなかで、特に新規memory T細胞集団であるstem cell memory T細胞(Tscm)の重要性が提唱されている。このTscm細胞は、未分化T細胞であるナイーブT細胞と同様の細胞表面マーカーを示し、他のmemory T細胞と比較し、長命で自己増殖をする特徴があり強力な抗腫瘍活性を持つ細胞と考えられている。今回申請者らが見出した3剤併用投与は、このTscm細胞を増加させることを確認しており、抗腫瘍免疫のkey memory T細胞を誘導させる点で独創的と考える
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然発症肝細胞がんマウスに、IL-18(10 ug/mouse), 抗PD-L1抗体(200 ug/mouse)を週2回4週間投与し抗腫瘍効果を検討した。IL-18+抗PD-L1抗体投与群では、control群と比較し肝腫瘍量の低下を認めたものの、IL-18、抗PD-L1抗体単剤投与群とは明らかな有意性を認めなかった。また肝臓内のリンパ球解析からIL-18+抗PD-L1抗体投与群でのCD8陽性T細胞やNK細胞の活性化が明らかでなかった。これらの実験結果を踏まえて、NK細胞の活性化を目的とし、IL-2を加えたIL-2(5000単位/Kg)+IL-18 (10 ug/mouse) + 抗PD-L1抗体(200 ug/mouse)の投与方法で、上記の肝細胞がんモデルに投与したところ著明な抗腫瘍効果を認め、CD8陽性T細胞の活性化、浸潤数の増加を認めた。
|
今後の研究の推進方策 |
今回我々が見出したIL-2+IL-18+抗PD-L1抗体併用療法は、従来のがん免疫治療とは異なり全く新規の治療メカニズムが想定される。すなわち、IL-18+抗PD-L1抗体投与によりstem-like memory T細胞を強力に誘導し、IL-2を付加することにより、central memory T細胞を誘導することが可能となる。IL-18+抗PD-L1抗体あるいはIL-2+抗PD-L1抗体のみでは抗腫瘍効果は不十分であり、この実験結果はすでに臨床での治験結果と一致していた。本研究では、IL-2+IL-18+抗PD-L1抗体併用療法の作用機序の解明を中心に、肝細胞がんマウスモデルを用いて安全性、有効性の検証を行う。まず、作用機序の解明としてIL-2+抗PD-L1抗体、IL-18+抗PD-L1抗体後のがん局所での遺伝子発現や浸潤リンパ球の免疫学的解析などの比較検討を行い、3剤の併用投与の優位性を検証する。具体的には、血清、肝臓組織を用いて、Bio-plex、RT-PCR array、real time PCRなどによりサイトカイン、ケモカイン, 転写因子の発現を解析する。また腫瘍浸潤リンパ球、脾臓のリンパ球を用いてCD8T細胞、NK細胞などの活性化をFACSにて解析し、single cell解析やCD8T細胞のTCRレパトア解析を行う。また腫瘍に対するeffector細胞の同定を行うため、CD8T細胞、NK細胞に焦点をあて、これらの細胞除去後IL-2+IL-18+抗PD-L1抗体併用投与の抗腫瘍効果を検討する。また最近の報告から、IL-18に拮抗作用のあるIL-18BPが腫瘍免疫に関与しているとあり、肝細胞がんマウスでの血清IL-18BP濃度やがんにおけるIL-18BPの遺伝子発現を解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究に使用する肝細胞がんマウスの作製に時間を要し、実験計画に基づいて使用予定の試薬購入を次年度に変更したため。
|