研究実績の概要 |
血中心筋トロポニン-T濃度は心筋梗塞や抗がん剤による心筋障害のバイオマーカーとして日常診療で用いられる。我々は明らかな心筋障害がないにも関わらず血中トロポニン-T濃度が高値で、がん組織がその産生源である可能性のある患者を経験した(Tsuruda T, et al. Front. Cardiovasc. Med., 2019; 6:124)。本研究はこの臨床経験をもとに計画され、がん組織でのトロポニン-T発現を検討した。肺がん患者68名(68±11歳、初期病変33例、進行病変35例)のパラフィン切片を用いてトロポニンTの免疫染色(Clone13-11, 1 microgram/mL)を行った。トロポニン-Tの発現頻度は37%(25/68例)でがん細胞の細胞質や核にその免疫活性を観察した。その内訳は、扁平上皮癌(6/13例)、腺癌(18/50例)、神経内分泌癌(0/4)、大細胞癌(1/1例)であった。また、免疫活性の陽性頻度は初期病変(0-I期)は9%(3/33例)、進行病変(II-IV期、再発例)は63%(22/35例)だった。さらにトロポニン-T陽性頻度は胸膜浸潤(9/35 vs. 4/5, χ2=5.877, p=0.015)や血管浸潤(9/35 vs. 3/5, χ2=2.449, p=0.118)で増加傾向を示し、リンパ管浸潤例で減少傾向であった(13/35 vs. 1/5, χ2=3.288, p=0.07)。術中病理に提出された扁平上皮癌および腺癌組織ではトロポニン-T遺伝子発現を検出した。以上から、心筋トロポニン-Tはがん組織でも発現し病期の進行と関連する可能性が示唆された。今後、がん組織におけるトロポニン-Tの病態生理学的役割について検討する予定である。
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