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2022 年度 実施状況報告書

老化による血管ミトコンドリア代謝への影響解明と高齢者虚血性疾患の新たな治療戦略

研究課題

研究課題/領域番号 22K08143
研究機関天理医療大学

研究代表者

金井 恵理  天理医療大学, 医療学部, 教授 (20372584)

研究分担者 的場 聖明  京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10305576)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード加齢 / 動脈硬化 / ミトコンドリア / 糖尿病 / エネルギー代謝 / 血管代謝
研究実績の概要

老化は細胞のエネルギー代謝を変化させ、動脈硬化を進めてさまざまな虚血性心血管疾患を引き起こす。我々はこれまでに、p53 とその下流にあるTIGARの経路が、ミトコンドリアやオートファジーに影響してエネルギー代謝の変化をもたらすことを報告してきた。本研究では、老化がどのように血管ミトコンドリアエネルギー代謝に影響して動脈硬化を進展させるのかを明らかにし、次にすでに使用されている治療法や生薬を候補に、動脈硬化の進展を阻止する新しい治療法の可能性を探ることを目的にした。
今年度は、基礎研究において主に次の2つを明らかにした。①まず、動脈硬化の主たる危険因子である糖尿病に着目した。加齢によって増加する糖尿病はインスリンの作用不足が原因であり、適切なインスリン分泌は膵β細胞におけるミトコンドリアからのエネルギー供給に依存する。核酸成分であるピリミジン塩基の生合成中間物質の一つであるオロト酸を、肥満モデルマウスや糖尿病モデルマウスに投与したところ、p53を抑制して膵β細胞を保護し、インスリン分泌能が改善された。オロト酸は乳清に含まれるありふれたものであり、臨床に展開しうる介入候補の一つと考える。②また、老化した血管のエネルギー代謝を検討した。時にコロナ感染拡大によって特に高齢者に死亡率が高いことが社会問題になっている。そこで、若い血管内皮細胞と老化した血管内皮細胞を用意し、SARS-CoV-2を感染させ、その影響を検討した。SARS-CoV2の感染は血管内皮細胞の様々な遺伝子発現を変化させ、血管の機能不全を引き起こした。この変化は老化した細胞でより大きかった。このことから、高齢者のコロナ感染患者においては、血管年齢の老化が疾患の重篤性に大きく関係する可能性を示唆した。
以上の基礎研究に加え、将来の臨床展開を考慮し、トクホ食品や血管に関するいくつかの症例研究を実施した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

申請時に予定した研究は、主に次の2つの基礎研究を軸としたものであった。
・老化による血管内皮細胞の機能変化とミトコンドリアエネルギー代謝に関するin vitro研究 ・遺伝子改変動物や動脈硬化モデルを使ったin vivo研究
これらの研究によって、まずは老化した個体における血管のミトコンドリア代謝の変化を明らかにし、p53-TIGAR経路を軸に治療介入のターゲットを示し、次に、すでにほかの目的で使われている薬剤や一般に使用されているサプリメントなどを候補に、老化による虚血性疾患の進展を阻止する方法までを動物モデルで明らかにすることを目的としていた。
以上の当初計画に対して現在までに、まずp53-TUGAR経路に介入するオロト酸を軸とした新しい治療の可能性を示すことができた(上記5.①)。オロト酸は乳清に含まれるものであり、投与の量が形、タイミング等の調整によって、十分に臨床展開が期待できると考える。また、老化した血管の代謝研究については、コロナ感染拡大の状況を鑑み当初予定を変更したが、SARS-CoV2による血管への影響を検討し、血管が老化するとより血管の機能不全を起こしやすくなることを示した(上記5.②)。さらに、当初計画にはない症例研究を実施することができた。以上から、おおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

現在までの成果により、糖代謝は、高齢者における動脈硬化にとって重要なポイントであることを再認識した。血管年齢が進むと心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントが増え、健康長寿を阻害する。糖尿病は生活習慣が深く関与する、息の長い治療が必要な疾患であり、動脈硬化の主たる危険因子の一つである。糖尿病患者ではり患しない者に比べて健康寿命が6,7年短縮することが知られている。以上から、今後はひきつづき老化血管における基礎研究を進展させるとともに、糖尿病患者での動脈硬化の現状を探るべく、観察型臨床研究を予定し、本研究の目標である高齢者虚血性疾患の新たな治療戦略につながるような知見の検討を推進する。また、現在までに実施した症例研究は、研究の方向性を決めるのに、重要な判断材料の一つとなった。このため、次年度も積極的に症例研究を推進する。

次年度使用額が生じた理由

現在までにおおむね研究は順調に進展したものの、コロナ感染拡大の状況を鑑み、当初予定していた遺伝子改変モデル動物での実験を変更し、ヒト血管内皮細胞における実験を実施した。また、学会発表や情報交換のための出張も可能な限り控えた。このため、消耗品や旅費等の次年度使用が生じた。
次年度は当初予定の実験を再開し、かつ渡航中止した学会発表も予定する計画である。すでに5月時点で予定通りに進行している。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Insight into rare and intractable diseases in Japan through cardiomyopathy.2023

    • 著者名/発表者名
      Iwai-Kanai Eri
    • 雑誌名

      Bull Tenri Health Care.

      巻: 11(1) ページ: 36-44

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 臨床検査の精度管理-現場における工夫と実際2023

    • 著者名/発表者名
      山本慶和、金井恵理
    • 雑誌名

      天理医療大学紀要

      巻: 11(1) ページ: 51-59

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 指定難病である心筋症とその支援2023

    • 著者名/発表者名
      金井恵理
    • 雑誌名

      難病と在宅ケア

      巻: 28(11) ページ: 49-52

  • [雑誌論文] Orotic acid protects pancreatic β cell by p53 inactivation in diabetic mouse model.2022

    • 著者名/発表者名
      Fushimura Y, Hoshino A, Furukawa S, Nakagawa T, Hino T, Taminishi S, Minami Y, Urata R, Iwai-Kanai E, Matoba S.
    • 雑誌名

      Biochem Biophys Res Commun.

      巻: 585 ページ: 1910195

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2022.10.060.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Senescent endothelial cells are predisposed to SARS-CoV-2 infection and subsequent endothelial dysfunction.2022

    • 著者名/発表者名
      Urata R, Ikeda K, Yamazaki E, Ueno D, Katayama A, Shin-Ya M, Ohgitani E, Mazda O, Matoba S.
    • 雑誌名

      Sci Rep.

      巻: 12(1) ページ: 11855

    • DOI

      10.1038/s41598-022-15976-z.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] がんと心臓病とCardio-Oncology/Onco-Cardiology―腫瘍循環器学のはじまりと理解―2022

    • 著者名/発表者名
      金井恵理、阪本二郎
    • 雑誌名

      天理医療大学紀要

      巻: 10(1) ページ: 4-13

    • DOI

      10.24667/thcu.10.1_4

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Successful Treatment of Pulmonary Arterial Hypertension using Immunosuppressive Therapy without Pulmonary Vasodilator in a Patient with Connective Tissue Disorder2023

    • 著者名/発表者名
      Yu Amano, Hiroyuki Akebo, Kazuma Yoshida, Eriko Kashihara, Shunsuke Tagawa, Jaegi Shim, Hirofumi Miyake, Kazuhiro Hatta, Eri Iwai-Kanai
    • 学会等名
      The 87th Annual Scientific Meeting of the Japanese Circulation Society (JCS2023)
    • 国際学会
  • [学会発表] 特定保健食品多用により潜在化した副甲状腺機能亢進症と微細腺腫摘出により軽快した高Ca血症の一例2022

    • 著者名/発表者名
      多田真恵 藤村真輝 児嶋剛 八田和大 林野泰明 金井恵理
    • 学会等名
      第237回日本内科学会近畿地方会
  • [学会発表] 大動脈ステントグラフト感染に合併した大動脈食道瘻の一例2022

    • 著者名/発表者名
      中井光 吉田和馬 村上廣一朗 明保洋之 三宅啓史 沈載紀 田川竣介 柏原英里子 小曳純平 上原京勲 新井善雄 八田和大 金井恵理
    • 学会等名
      第134回日本循環器学会近畿地方会

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公開日: 2023-12-25  

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