研究課題
1. マウス心不全モデルにおけるEIF4EBP3の役割の解明EIF4EBP3ヘテロ接合欠損マウス(KO)および同腹の野生型マウス(WT)を用いた。心エコーではWT・KOともに心機能・形態とも正常であり、病理学的解析で心筋サイズや間質線維化の程度も有意差を認めなかった。全身麻酔・人工呼吸管理下に大動脈弓部縮窄(TAC)による圧負荷心不全モデルを作成した。6週後、WTと比しKOではTAC手術後の心機能悪化が抑制され、生存率が改善した。病理学的にはKOでは心室の線維化が抑制され、電子顕微鏡でミトコンドリア障害の抑制が認められた。RNA sequencingでは、WT-TAC群と比較して、KO-TAC群では脂肪酸エネルギー代謝に関わる遺伝子発現が維持された一方、線維化に関わる遺伝子発現は抑制されていた。また、心筋梗塞(MI)モデルにおいても、TACによる心不全と同様の所見を得た。現在、心筋エネルギー代謝の改善の機序に関して、EIF4EBP3と相互作用を来す分子の同定を試みている。2. 培養心筋細胞を用いたEIF4-EIF4EBP3経路による分子機序の解明WTあるいはKOから採取した心筋細胞におけるエネルギー代謝を細胞外フラックスアナライザーを用いて測定したところ、WT由来心筋細胞と比較して、KO由来心筋細胞では好気的エネルギー代謝が維持されていた。一方、EIF4EBP3 cDNA強制発現心筋細胞では好気的エネルギー代謝が低下していた。In vivo、in vitroの実験結果より、心筋梗塞や圧負荷による心不全では、心筋におけるEIF4EBP3の発現が亢進し、好気的エネルギー代謝を抑制し、心機能の悪化に関与していること、そして、EIF4EBP3阻害によって、心不全の病態が改善する可能性があることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
研究はほぼ計画通り順調に進んでいる。心筋細胞を用いた実験では、当初の計画では電気生理学的解析などで評価する予定だったが、マウス実験の結果から標的分子がエネルギー代謝調節に重要であることが分かったため、心筋細胞を用いた実験はエネルギー代謝に焦点を当てた実験を主体として行なっており、順調に成果が出ている。
EIF4EBP3遺伝子欠損によって、どのようなタンパク発現が変化するのかプロテオーム解析を行う。GST融合組換えタンパクを作成し、アフィニティクロマトグラフィーにより、EIF4EBP3と結合するタンパクを同定する。
研究の進行および経費の使用状況についてはほぼ予定通りであるが、5,194円の次年度使用額が生じた。次年度は試薬・消耗品・事務用品などの物品費として80万円、委託解析費などその他の経費として20万円を計上しており、繰り越した経費も物品費として使用する予定である。
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Life Sciences
巻: 306 ページ: 120807~120807
10.1016/j.lfs.2022.120807