研究実績の概要 |
拍動しつづける心臓はエネルギーを持続的に必要とし, 細胞の基本的なエネルギー基質であるアデノシン三リン酸(ATP) をもっとも多く必要とする臓器である. 心筋のサルコメアはATPによってリン酸化をうけ, アクチンとミオシンのクロスブリッジが起こり, 細胞が収縮し, 心臓に血液を駆出する「力」を発生させる. 常に動き続ける心臓でこのエネルギー代謝をリアルタイムにモニターすることはこれまで不可能であった. 我々はATP濃度の変化を可視化するFRET蛋白質を利用してATP変動をin vivoで計測できるマウス (cytATeamマウス) を開発した. このマウスを用いて心臓のATP量を, 急性の負荷をかけて経時的に調べたところ, 心臓のATP濃度は酸素消費量の変化とともに変動することが分かった. (Koitabashi N. bioRxiv 2020. preprint). このマウスの応用は, 薬剤の心臓エナジェティクスへの効果の検討などの臨床医学につながる分野や, ATP動態が心疾患形成に与える影響の検討などの病態生理学的な分野, 心臓発生における酸素-ATPの役割などが考えられる. 今回, ヒトの遺伝性心筋症の原因となる遺伝子バリアントをノックインした心筋症マウスモデルを新規に作成し, その病態形成に心筋におけるATP動態がどのように影響するのか, 検討する. さらに既知の心不全治療薬やミトコンドリア機能に作用する薬剤が心筋症心臓のATP動態へどのように影響するかをみることにより, 心筋症治療への新たな治療に繋がる可能性がある.
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