研究実績の概要 |
拍動しつづける心臓はエネルギーを持続的に必要とし, 細胞の基本的なエネルギー基質であるアデノシン三リン酸(ATP) をもっとも多く必要とする臓器である. 心筋のサルコメアはATPによってリン酸化をうけ, アクチンとミオシンのクロスブリッジが起こり, 細胞が収縮し, 心臓に血液を駆出する「力」を発生させる. 常に動き続ける心臓でこのエネルギー代謝をリアルタイムにモニターすることはこれまで不可能であった. 我々はATP濃度の変化を可視化するFRET蛋白質を利用してATP変動をin vivoで計測できるマウス (cytATeamマウス) を開発した.今回, ヒトの遺伝性心筋症の原因となる遺伝子バリアントをノックインした心筋症マウスモデルを新規に作成し, その病態形成に心筋におけるATP動態がどのように影響するのか, 検討する. さらに既知の心不全治療薬やミトコンドリア機能に作用する薬剤が心筋症心臓のATP動態へどのように影響するかをみることにより, 心筋症治療への新たな治療に繋がる可能性がある. 我々は, 日本において同定された遺伝性心筋症の家系で同定されたMYBPC3遺伝子のバリアント (Arg820Gln:R820Q) (Konno et al. J Am Coll Cardiol 2003) をノックインしたマウス (MyBP-KI)を作成し, フェノタイプ解析を行った. このマウスにおいてRNA sequenceによる遺伝子変化を検討すると, ノックインマウスにおいて, ミトコンドリア関連もしくはエネルギー代謝関連の遺伝子群において, 低下が起こっていることが分かった. 現在, こMyBP-KIマウスとATeamマウスを掛け合わせ, 解析を行っている. 現時点では, 心臓リモデリングが進行する前に, ATPの動態の異常が先行することが判明している.
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