研究課題/領域番号 |
22K08156
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
小田 哲郎 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (40569290)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カルモジュリン / HFpEF / リアノジン受容体 / カルシウムハンドリング |
研究実績の概要 |
今回我々は、今後の超高齢化社会で増加するであろう心不全、特に高齢者に多い心収縮力の保たれた心不全(HFpEF)に着目した。これまでの実験の結果から、心筋細胞内のカルシウム動態およびリアノジン受容体(RyR2)の安定化に寄与しているカルモジュリン(CaM)の細胞内動態を制御することが、HFpEFに対して有効な治療法となり得るのではないかと考え、TAC(大動脈弓結紮)後2週間モデル(左室駆出率(EF)正常)とtwo-hit(高脂肪食とL-NAMEを投与)モデルの2種類のHFpEFモデルを用いて検証した。 実験の結果、TAC後2週間モデルでは、CaMはRyR2から解離し核内へ移行しており、心肥大や異常なカルシウム漏出がみられたが、CaMのRyR2への結合親和性を高めた、RyR2の遺伝子改変マウスであるV3599Kマウスを使ったTAC後2週間モデルではCaMのRyR2からの解離や心肥大の発生、さらにはRyR2からの異常なカルシウム漏出を抑制していた。また、純粋なHFpEFモデルとされる、前述したtwo-hitモデルにおいて、RyR2安定化薬(CaMとRyR2の結合親和性を高める)であるダントロレンおよび高脂肪食とL-NAMEを投与したV3599Kモデルでは、HFpEFで認められる心肥大や肺うっ血、運動耐容能の低下、左室拡張能の低下、さらには異常なカルシウム漏出を抑制していた。これらの結果より、HFpEFの成因の一つに異常なカルシウムハンドリングやCaMの細胞内動態の変化が関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
残す実験も残りわずかである。現在、これまでの実験の統計解析をしている。しかし、筋小胞体へのカルシウム取り込み蛋白であるCa-ATPase(SERCA)の実験に苦慮しており、もうしばらく時間が必要であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
現在SERCAの機能及び発現量などを評価する測定系の確立に全力している。またこの研究のキーとなる蛋白の発現量の測定も行わなければならない。さらにCaM高親和性ノックインマウスを用いた実験を行っているが、まだ個体数が少なく、個体数を増やす必要がある。これらの実験で良好な結果が得られればHFpEFに対する新たな治療戦略となる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨今の世界情勢で国際学会への参加を取りやめたため。今後もしばらく国内、国外問わず学会参加が難しい状況であるが、さらなる研究のため、各種の一次抗体、二次抗体や統計解析のための機器などが必要となるため、その購入資金として使用する予定。
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