研究課題/領域番号 |
22K08160
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山本 英一郎 熊本大学, 病院, 講師 (50573614)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 肺高血圧症 / 血管内皮機能 |
研究実績の概要 |
研究①:WTマウスとASK1-/-マウスの大動脈より初代培養した血管内皮細胞に、アンジオテンシンⅡ(AⅡ)を添加してウェスタンブロッティングを中心に生化学的に検討するin vitro研究をおこない、結果AⅡ添加によりWTでは、血管eNOSのダイマー/モノマー比が有意に低下しeNOSアンカップリングが惹起されるが、ASK1-/-の内皮細胞ではAⅡ添加によってもダイマー/モノマー比に変化はみられなかった。また、野生型の血管内皮細胞では、ウェスタンブロッティングで測定したDHFRタンパク量も減少しており、この変化はASK1-/-マウスからの内皮細胞ではみられなかった。 研究②:eNOSアンカップリング改善薬としてBH4製剤(塩酸サプロプテリン)を肺高血圧症モデルラットに投薬し、その改善効果を検証したところ、少数例ではあるが、肺高血圧症モデルラットで上昇していた右室圧と、右室/左室重量比は、いずれも塩酸サプロプテリン投与にて有意に改善している所見を得ている。 研究③:心不全のないコントロール患者にくらべて、特発性肺動脈性肺高血圧(IPAH)患者ではReactive Hyperemia Index(RHI)値測定による明らかな末梢血管内皮機能不全を認めた。また、IPAH患者6名を対象に、右心カテーテルによる心内圧測定時に、肺循環の肺動脈(PA)と体循環の大腿静脈(FV)から採血をし、それぞれでeNOSアンカップリングの指標として、BH4/BH2比と、専用の測定器でROSのマーカーとしてDROM値を測定したところ、BH4/BH2比はPAにおいて低下し、DROM値は上昇していた。これらは、いずれも肺循環においてeNOSアンカップリングがより有意に惹起されていることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り基礎研究と臨床研究を並行して推進している。しかし、いずれの研究においてもまだ十分な症例数、サンプル数を担保しているとはいえず、さらに研究を推進し症例数を重ねていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今回の基礎検討では、まずVEGF受容体拮抗薬と低酸素負荷にてplexiform lesionを含むヒトの病理像を反映する“真のPAHモデル”が作成できることを確認できた。さらに同モデルを用いた検討で、PAHモデルにおいてeNOSの機能不全であるeNOSアンカップリングの関与が示唆された。よって、塩酸サプロプテリン(BH4製剤)はPAHに対する新規治療薬として期待される。eNOSアンカップリングは、これまでの動物実験の成果から肺動脈性肺高血圧症の病態の首座をなしている可能性があり、実際のヒト病態での関与の証明は非常に重要である。本研究によりeNOSアンカップリングのヒト病態への関与が証明されれば、eNOSアンカップリングへの介入が既存のNO吸入療法やプロスタサイクリン誘導体、PDE5阻害薬といったNO産生を上昇させ肺血管抵抗を改善させる治療法よりも効率的な治療法となり、これら既存の治療への不応例(non-responder)にも適用できる可能性が考えられる。 また今回の臨床的検討で、IPAH患者肺循環で、BH4/BH2比は相対的低下と、 ROS増加(DROM上昇)がみられ、eNOS uncouplingが惹起されている可能性が示唆された。さらに、 IPAH患者においては末梢血管内皮機能も低下し、重症度を反映する可能性がある。この結果は、モデルラットによる検討の結果と合致するもので、肺動脈性肺高血圧症における血管内皮機能障害の発症機序に肺動脈におけるeNOSアンカップリングが深く関与する可能性を示唆するものである。 今後は症例数を増やしより信頼性のあるデータを担保し、上記の研究目標にむけて研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度のため、まだ十分な研究サンプル数と症例数を満たしておらず、そのため消耗品等や研究費の使用に次年度繰り越しが発生した。今後も症例数やサンプル数を増やし、統計解析ソフトなどを用いて結果の解析を次年度以降おこなっていく。
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