Y染色体上の遺伝子と心不全の発症・進展についての研究

2023 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 22K08162
• 研究機関: 国立研究開発法人国立循環器病研究センター
• 研究代表者: 佐野 宗一 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (80647884)
• 研究期間 (年度): 2022-04-01 – 2025-03-31
• キーワード: 後天的Y染色体喪失 / 体細胞モザイク / クローン性造血 / 心不全 / 心臓マクロファージ / マウス骨髄移植法 / シングルセルマルチオミクス解析 / CRISPR/Cas9

研究実績の概要

令和4年度の研究で、血液細胞におけるY染色体喪失（LOY）がUty遺伝子の欠損を引き起こし、それが心不全の悪化に寄与する可能性が示唆された。このため、令和5年度では血液細胞のUty遺伝子欠損が心不全にどのように影響するかに焦点を当てて研究を進めた。
研究の第一段階として、血液特異的Uty欠損（KO）マウスを作製し、これらのマウスが横行大動脈狭窄術による圧負荷に対して。コントロールマウスよりも高い感受性を持つことを確認した。また、術後7日目の心臓からUty-KO白血球をセルソーティングで単離し、シングルセルマルチオミクス解析を行なった。この解析から、Uty-KOマクロファージにおける線維化関連遺伝子のクロマチンアクセシビリティが増加していることが明らかになった。この結果に基づいてさらに解析を進め、血液特異的Uty-KOマウスの心臓において、圧負荷が引き起こす線維芽細胞の増加や線維化がコントロールマウスよりも顕著であることが確認された。さらに、TGF-beta中和抗体の投与により血液特異的Uty-KOマウスの心不全悪化の表現型が、コントロールマウスと同程度まで改善することが示された。
これらの知見から、Uty遺伝子欠損は心臓マクロファージの活性化状態を線維化促進型に偏らせ、結果として心臓線維化が進行させ、心不全を悪化させると考えられた。

現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

血液のUty遺伝子欠損によって心不全が悪化するメカニズムの一端を明らかにすることができた。そして、その成果を国際科学誌Nature Cardiovascular Researchに報告した。

今後の研究の推進方策

これまでの研究で、後天的Y染色体喪失（LOY）が加齢性疾患や心血管疾患と関連していることが示されている。特に、心不全を含む多くの心血管疾患との関連性が指摘されているが、これらの関係はまだ完全には解明されていない。
心不全は多面的な疾患であり、その発症と進行に多くの要因が関与する。このことから、心不全は大きな異質性（heterogeneity）の示す疾患となっている。現在、血液中のLOYが心不全のすべてのタイプに影響を与えるのか、あるいは特定のタイプにのみ関連しているのかは明らかではない。たとえば、収縮能が低下した心不全（HFrEF; Heart Failure with reduced Ejection Fraction）や収縮能が保たれた心不全（HFpEF; Heart Failure with preserved Ejection Fraction）にLOYが異なる影響を与える可能性が考えられる。
この問題を解明することは、心不全の個別化医療への貢献につながる。そのため、今後の研究では、心不全の各サブタイプに対する血液のLOYの影響を分析し、どのタイプの心不全がLOYと関連しているのかを明らかにすることが求められる。

次年度使用額が生じた理由

当年度、所属の移動等により実験の中断、物品購入等の調節を行なったため

研究成果

• [雑誌論文] A Novel Method for Acquired Sex Chromosome Mosaicism (2024)
  • 著者名/発表者名: Tsuchiya Junichi、Maki Yoshinori、Ayano Madoka、Kikuchi Taiki、Watanabe Yosuke、Ohtake Kiyoshi、Fujita Rumi、Hayashi Masaru、Yamamoto Junji、Wang Ying、Anzai Atsushi、Kubo Tomohiro、Sano Soichi
  • 雑誌名: Advanced Biology 巻: - ページ: -
  • DOI: 10.1002/adbi.202300512
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Dirsuption of the Uty epigenetic regulator locus in hemtopoietic cells phenocopies the profibrotic attributes of Y chromosome loss in heart failure. (2024)
  • 著者名/発表者名: Horitani K, Chavkin NW, Arai Y, Wang Y, Ogawa H, Yura Y, Evans MA, Cochran JD, Thel MC, Polizio AH, Sano M, Miura-Yura E, Arai Y, Doviak H, Arnold AP, Gelfand BD, Hirschi KK, Sano S, Walsh K.
  • 雑誌名: Nat Cardiovasc Res. 巻: 3 ページ: 343-355
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Why Y matters? The implication of loss of Y chromosome in blood and cancer (2024)
  • 著者名/発表者名: Wang Ying、Sano Soichi
  • 雑誌名: Cancer Science 巻: 115 ページ: 706～714
  • DOI: 10.1111/cas.16072
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Mosaic loss of chromosome Y and cardiovascular disease (2023)
  • 著者名/発表者名: Sano Soichi、Walsh Kenneth
  • 雑誌名: Nature Reviews Cardiology 巻: 21 ページ: 151～152
  • DOI: 10.1038/s41569-023-00976-x
  • 国際共著
• [雑誌論文] Clonal Hematopoiesis in Clinical and Experimental Heart Failure With Preserved Ejection Fraction (2023)
  • 著者名/発表者名: Cochran JD, Yura Y, Thel MC, Doviak H, Polizio AH, Arai Y, Arai Y, Horitani K, Park E, Chavkin NW, Kour A, Sano S, Mahajan N, Evans M, Huba M, Naya NM, Sun H, Ban YH, Hirschi KK, Toldo S, Abbate A, Druley TE, Ruberg FL, Maurer MS, Ezekowitz JA, Dyck JRB, Walsh K.
  • 雑誌名: Circulation 巻: 148 ページ: 1165～1178
  • DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.064170
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Development of a Mouse Model of Hematopoietic Loss of Y Chromosome (2023)
  • 著者名/発表者名: Sano Soichi、Walsh Kenneth
  • 雑誌名: BIO-PROTOCOL 巻: 13 ページ: -
  • DOI: 10.21769/BioProtoc.4729
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Mosaic Loss of Y Chromosome in White Blood Cells: Its Impact on Men’s Health (2023)
  • 著者名/発表者名: Sano Soichi、Thel Mark C.、Walsh Kenneth
  • 雑誌名: Physiology 巻: 38 ページ: 161～166
  • DOI: 10.1152/physiol.00008.2023
  • 国際共著
• [雑誌論文] Clonal hematopoiesis: the nonhereditary genetics of age-associated cardiovascular disease (2023)
  • 著者名/発表者名: Sano Soichi、Thel Mark C.、Walsh Kenneth
  • 雑誌名: Current Opinion in Cardiology 巻: 38 ページ: 201～206
  • DOI: 10.1097/HCO.0000000000001032
  • オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] ぼくらはモザイク人にんげん (2024)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 第28回令和私塾共創の場
  • 招待講演
• [学会発表] 循環器臨床医として知らないわけにはいかないクローン性造血 (2024)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 第88回日本循環器学会学術集会
  • 招待講演
• [学会発表] 血液の性染色体喪失 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 心血管代謝週間CVMW2023
  • 招待講演
• [学会発表] Y染色体喪失と個体老化 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 第46回日本分子生物学会年会
  • 招待講演
• [学会発表] Why Y Matters? Loss of Y Chromosomeと疾患 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 第18回Osaka Cardio-Diabetes Conference
  • 招待講演
• [学会発表] 細胞変異と生物学的老化 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 2023年度 第2回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナー
  • 招待講演
• [学会発表] 男性のハートブレイク-Loss of Y chromosomeと心不全- (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: BUS 2023(Atjerosclerosis/thrombosis and Biolipid Update Seminar）
  • 招待講演
• [学会発表] The Darkside of Hematology : Clonal Hematopoiesis and heart Failure (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 第55回日本動脈硬化学会総会・学術集会
  • 招待講演
• [学会発表] When Heartbreak is Literal:the Link Between Loss of Y Chromosome in Leukocytes and Heart Failure in Men (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 第55回日本動脈硬化学会総会・学術集会
  • 招待講演
• [学会発表] 性のハートブレイク：Loss of Y chromosomeと心不全の因果関係 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 8回JCVA（日本心血管協会）年次学術集会
  • 招待講演
• [学会発表] 男性にとってのハートブレイク：Loss of Y chromosomeと心不全の関連性 (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 学会等名: 日本心血管内分泌代謝学会（CVEM）
  • 招待講演
• [図書] Medical Practice (2024)
  • 著者名/発表者名: 牧貴紀、佐野宗一
  • 総ページ数: 4
  • 出版者: 文光堂
• [図書] 検査と技術 (2024)
  • 著者名/発表者名: 土屋純一、佐野宗一
  • 総ページ数: 2
  • 出版者: 医学書院
• [図書] 日本臨牀 (2024)
  • 著者名/発表者名: 安西淳、佐野宗一
  • 総ページ数: 7
  • 出版者: 日本臨牀社
• [図書] 実験医学 (2023)
  • 著者名/発表者名: 菊池太貴、佐野宗一
  • 総ページ数: 5
  • 出版者: 羊土社
• [図書] 循環器病研究の進歩 (2023)
  • 著者名/発表者名: 菊池太貴、佐野宗一
  • 総ページ数: 8
  • 出版者: 協和企画
• [図書] BIO Clinica (2023)
  • 著者名/発表者名: 佐野宗一
  • 総ページ数: 8
  • 出版者: 北隆館 ニュー・サイエンス