心不全は心臓のポンプ機能の低下により全身に必要量の血液を供給できない状態であり、その際の心筋細胞では主なエネルギー産生経路が脂質代謝から糖代謝に移行する。糖代謝は脂質代謝と比較しエネルギー産生量が少ないため、不全心ではエネルギー産生量が低下しエネルギー不足がさらに心機能低下を招いている。そのためエネルギー産生量を増加させ、心筋細胞に必要量を供給することが心機能を改善する可能性がある。高脂質食は脂質代謝を再活性化させ、エネルギー産生量を増加させると報告があるが、一方で脂質が心筋細胞毒性をもたらすとの報告もある。本研究では細胞内脂肪滴産生に重要な因子であるLipin1に注目し、Lipin1が脂肪酸を脂肪滴に取り込むことで毒性を抑制するとともに、必要に応じたエネルギー産生調節を行い得るかを検討する。 今年度、Lipin1を心臓特異的に発現を欠損させたマウス (cKOマウス)に心筋梗塞を作成し、野生型マウスと比較した。結果、cKOマウスでは野生型マウスと比較し、心機能が悪化した。また心筋内脂肪滴と脂肪酸の低下を認めた。さらに炎症反応を検討したところ、CD45陽性白血球の心臓内への浸潤や炎症性サイトカイン発現は、cKOマウスで増加していた。Lipin1過剰発現マウスを用いた結果と合わせ考えると、Lipin1が心筋内の脂肪酸代謝を維持することで心筋梗塞時の炎症を軽減し心臓リモデリングを抑制していると考える。現在は、結果を公表するために論文作成を行っている。
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