研究課題
血管の異常収縮状態が継続した場合、恒常的に血圧が高い状態になります。本研究では、そのようなメカニズムで起きる高血圧の治療薬の開発を目指して、これまでの研究を通して特定した血管収縮に関わるp63RhoGEFというタンパク質の阻害剤の発見を視野に、まずはp63RhoGEFの詳細な機能解析行うことを主要目的の一つに掲げています。阻害剤の影響などによるp63RhoGEFの状況変化の血管収縮への影響を知るには血管を直接観察できることが望ましいのですが、人間等の哺乳類ではそれが困難です。一方、魚類であれば半透明であるヒレの血管を顕微鏡で直接観察することができます。そこで、哺乳類と同じ脊椎動物であり、哺乳類と同様の血管収縮メカニズムを含む生理機能を持っていると思われる魚類に着目し、その中でも最も研究され情報も豊富なゼブラフィッシュにp63RhoGEFかそれに似たタンパク質が無いかの探索を行いました。ゼブラフィッシュにp63RhoGEFがあれば、その状況変化の血管収縮への影響を直接観察しながら研究を進めることができます。そこで必要な情報を得た後、再び人間等の哺乳類に応用できるかの研究に戻る予定です。幸い、ゼブラフィッシュ版のp63RhoGEFを特定することができ、そのタンパク質を作るためのツール(過剰発現システム)制作も終えました。現在は、特定したゼブラフィッシュ版のp63RhoGEFが、哺乳類版のp63RhoGEFと同じ機能を持つかを確認する実験を行っているところです。
2: おおむね順調に進展している
人間等哺乳類は、あるタンパク質のためのDNA配列を父母それぞれからから1つずつ受け継いでいますが、魚類の場合は過去の進化の課程でそれ以上の遺伝子をとりこんだ痕跡が残っている事があり、ほぼ同じタンパク質のDNA配列が(雌雄から受け継いだ同じタンパク質DNA配列のペアを1組とした場合)2組存在している事があります。哺乳類においてはp63RhoGEFのDNAは1組(ただし、2種のアイソフォーム)しか存在していませんが、今回、ゼブラフィッシュ版のp63RhoGEFの特定を試みた結果、哺乳類のp63RhoGEFに極めて似通ったタンパク質のDNAが2組存在している事が判明し(各々に哺乳類と同様2種類のアイソフォームが存在している事から、それを加味した場合計4種類)、その全てをクローニングするのに予想より時間がかかる結果となりました。また、哺乳類と比べ、報告されているDNA配列の多様性が限定されている(これまでに、実際のDNA配列が読まれた個体数が少ない)ことから、我々がクローニングしたDNA配列と報告されているDNA配列に差異があった場合、それが個体差なのか、クローニングの際に生じたエラーなのかを分析・特定するのにも予想以上の時間が必要となりました。しかし、現在は最も普遍的と思われる配列を確定し、次の段階である機能分析に進む準備が整った状態となっています。
概要や進捗状況でも述べましたように、今回ゼブラフィッシュの遺伝子よりクローニングしたゼブラフィッシュ版p63RhoGEFと推定されるタンパク質の機能解析、さらに発現部位の特定を行います。具体的には哺乳類のp63RhoGEFと同じ活性化因子によって活性化されることの確認、及び、哺乳類p63RhoGEFの活性化対象となっている因子の活性化能力を有しているかの確認と、in situ hybridizationによる発現部位の特定を行います。ゼブラフィッシュ版p63RhoGEFと推定されるタンパク質が、哺乳類のp63RhoGEFと同様の機能を有し、血管平滑筋での発現が確認されれば、将来の低分子阻害剤のスクリーニングの際、その有効性を血管収縮の直接観察が可能であるゼブラフィッシュを使って行うための重要な科学的根拠となります。一方、すでに報告されている、p63RhoGEFに類似するタンパク質の阻害結合ペプチドの配列を元に、in silico モデリングによる哺乳類p63RhoGEFの阻害結合ペプチドの探索、その特定後、培養細胞等において実際に阻害結合能力があるかの確認を行います。同阻害能力については哺乳類p63RhoGEFだけでなく、ゼブラフィッシュ版p63RhoGEFに対しても同様の阻害能力があるかどうかの確認を行います。並行して、より詳細なp63RhoGEFの機能特定を目標とし、結合タンパク質のスクリーニング手法の一つであるBioID手法を使った未特定のp63RhoGEF結合タンパク質を探索も行う予定です。
初年度にクローニングに成功したゼブラフィッシュ版p63RhoGEFと推定されるタンパク質の機能解析及び発現部位の特定のためのアッセイ、BioID手法を使った未特定のp63RhoGEF結合タンパク質の生物学的手法による探索、また、必要に応じて当該cDNAのサブクローニングを行う可能性があり、それらの実験を行うために必要な消耗品の購入、また、in silico モデリングによる哺乳類p63RhoGEFの阻害結合ペプチドの探索に必要なデジタル機器、ソフトウェアの購入を予定しています。また、今年度8月には、研究成果発表のために日本平滑筋学会に参加することを予定しており、そのための旅費も支出する予定です。
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