研究課題/領域番号 |
22K08219
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
赤井 良子 金沢医科大学, 総合医学研究所, 助手 (60823317)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 泡沫細胞 / 高脂質 / マウスモデル |
研究実績の概要 |
研究対象である「動脈硬化症」は脂質代謝異常により引き起こされる生活習慣病の1つであり、動脈壁の肥厚が特徴である。肥厚した動脈壁ではマクロファージがリポタンパク質を多く摂取して、脂質を蓄積した泡沫細胞に変化する。泡沫化したマクロファージは移動能を失い、局所的な炎症を慢性化させることが知られている。もう一つの研究対象である「小胞体ストレス」は膜タンパク質や分泌タンパク質の合成・修飾・輸送を担う細胞小器官の小胞体に生じるストレスのことである。そのストレスの原因は一般的に小胞体内で構造的に未熟または異常なタンパク質が増加することであるが、10年ほど前からは高脂肪状態も小胞体ストレスの原因として考えられるようになってきた。そのような小胞体ストレスを感知して活性化される分子にIRE1が知られ、私たちの研究グループは以前に泡沫細胞でIRE1が活性化状態にあることを見出している。しかしながら「泡沫細胞でIRE1が何をしているか?」は謎のままで、その機能になかなか迫れておらず、現在の重要な学術的「問い」となっている。先述の通り泡沫細胞におけるIRE1の機能解析は初めの報告から10年近く進まなかったが、IRE1と相互作用する分子の網羅的探索からカギとなるFMRPを発見することができた。そこで本研究ではマクロファージおよび泡沫細胞におけるIRE1とFMRPの機能解析から長らく不明であった小胞体ストレス応答と動脈硬化症の間にある分子メカニズムに踏み込む研究を実施している。これにより本研究の目的である「動脈硬化症と小胞体ストレスを関連させる生体分子メカニズムの解明」に挑む。本研究により動脈硬化症と小胞体ストレス応答の関連性がIRE1とFMRPの具体的な分子機能で説明できるようになれば、動脈硬化症の病態理解は大きく進み、その成果を踏まえた新たな創薬研究も発展するはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目はFMRP活性の分子解析およびFMRP欠損の病態解析を行い、以下のような結果を得た。高脂肪餌を16週間にわたって与えられた高コレステロール血症モデルマウスから得られた腹膜マクロファージでIRE1の自己リン酸化が誘導された。これらのマクロファージではFMRP S499のリン酸化も高コレステロール血症によって誘導された。小胞体ストレスがFMRPリン酸化を引き起こすかどうかを評価するために、培養マクロファージをパルミチン酸、酸化低密度リポタンパク質、タプシガルギンなどのさまざまな小胞体ストレス因子で処理したところ、全ての小胞体ストレス剤はIRE1キナーゼ活性およびFMRPリン酸化を誘導した。次に通常餌または高脂肪餌を16日間与えた後、骨髄特異的なIre1αの遺伝子欠失(Ire1α-/-)を伴うマウスから得られた腹膜マクロファージにおける高コレステロール血症誘発性FMRPリン酸化を分析したところ、FMRPリン酸化はIre1α+ / +マウスから単離されたマクロファージと比較した場合、Ire1α-/-マウスから単離されたマクロファージで有意に減少していた。対照的にFMRP mRNAの存在量には差がなかった。これらの結果から高コレステロール血症と小胞体ストレスがIRE1依存的にFMRPのリン酸化を誘導することを示せた。
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今後の研究の推進方策 |
IRE1依存的なFMRPのリン酸化について確認できたので、次年度は細かいIRE1との関連性へ迫るためにマクロファージ/泡沫細胞に阻害剤を使用した実験を行う。IRE1はキナーゼとしての機能とRNaseとしての機能を持つが、それぞれの機能を阻害する薬剤を使用する。これにより「FMRP活性化がどちらのIRE1機能に依存するのか?」検証できると考えている。具体的にはキナーゼ活性を阻害する場合はKIRA-6またはAMG-18を用いて、RNase活性を阻害する場合は4μ8cを用いる。また精製したIRE1およびFMRPタンパク質を試験管内で反応させて直接的なリン酸化反応が見られるかどうかの検証を行う。この検証はIRE1を標的とした動脈硬化症に対する創薬展開では特に重要なポイントとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬や器具類の節約使用により僅かな余剰ができたが、昨今の値上げラッシュから次年度は想定以上の支出が見込まれるため、それに充てる。
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