研究課題/領域番号 |
22K08220
|
研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
上村 史朗 川崎医科大学, 医学部, 教授 (60224672)
|
研究分担者 |
西 毅 川崎医科大学, 医学部, 講師 (10894446)
久米 輝善 川崎医科大学, 医学部, 講師 (60341088)
山田 亮太郎 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70388974)
新岡 宏彦 大阪大学, データビリティフロンティア機構, 特任准教授(常勤) (70552074)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 人工知能 / 冠動脈疾患 / 医学イメージング / 予後予測 |
研究実績の概要 |
本邦における急性冠症候群(ACS)の発症は生活習慣と動脈硬化の危険因子に対する大規模な介入が行われているにもかかわらず依然増加している。ACSは冠動脈プラークの不安定性に基づく血栓形成が原因であるため、プラークの不安定性を患者個別に診断し、その危険度に基づいた先制的な予防法を確立することが求められる。本研究では冠動脈疾患二次予防患者を対象として、冠動脈プラークの光干渉断層イメージング(OCT)画像を人工知能(AI)による深層学習の手法で解析し、冠動脈プラークの形態学的診断、特にACS発症に関連するハイリスクプラークを高精度に自動診断できる技術を開発すること、さらにデータベース化された患者集団において、そのAI画像診断の結果を患者の臨床的背景、転機と合わせて検討することにより包括的な冠動脈疾患の予防・ケアシステムを構築することを目的としている。 本年度においては、当研究室の患者データベースを用いて、OCT画像を教師あり学習を用いたAI解析し、冠動脈プラークの不安定性を自動的に判断できるアルゴリズムを開発した。さらにAIにより自動診断された冠動脈プラークの不安定性を後ろ向きに検討し、AI診断によるプラークの不安定性が冠動脈疾患の進展や臨床転帰を予測できる可能性を示すことができた。これらの結果は論文 "Automated diagnosis of optical coherence tomography imaging on plaque vulnerability and its relation to clinical outcomes in coronary artery disease"にまとめ、Scientific Reports. 2022 Aug 18;12(1):14067. doi: 10.1038/s41598-022-18473-5.に掲載した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては、2019年から継続している研究成果に基づいて、我々の研究室における患者データベース(KIBIDANGO Registry)に登録された患者のうち、冠動脈のOCT画像が記録され、臨床転帰が明らかとなっている患者6625例を研究対象した検討を行った。これらの患者をAIアルゴリズム構築のためのコホートとValidationコホートに分割した。OCT画像総数44,958枚に対して循環器専門医の診断を行い、これらを教師データとして、冠動脈プラークを”安定プラーク”、”不安定プラーク”、”正常血管”に分類できるAIアルゴリズムを作成した。さらに完成したAIアルゴリズムにより自動診断された冠動脈プラークの不安定性とOCT画像の撮影後の患者の臨床転帰を後ろ向きに検討した。結果として、作成したAIアルゴリズムは94.0%の精度で専門医の診断と一致する診断能を発揮し、さらにAI診断によるプラークの不安定性は冠動脈疾患の進展やACSの発症を予測できる可能性を示すことができた。これらの結果は、Scientific Reports. 2022 Aug 18;12(1):14067. doi: 10.1038/s41598-022-18473-5.に掲載した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度において作成したOCT画像を自動診断できるAIアルゴリズムは、冠動脈プラーク性状を高い精度で自動診断できる性能を有しているが、いくつかの問題点を内在している。第一に、本アルゴリズムはAbbott社OCT画像診断システムで記録した医療画像を対象としたものであり、実地診療における実用のためには別の画像診断システムで記録されたOCT画像にも同程度の精度で応用される必要がある。さらに第二の問題点としてOCTの画像が記録された冠動脈疾患患者の臨床的予後は一時点の冠動脈の不安定性のみによって規定さるものではなく、動脈硬化の危険因子、年齢、合併する他臓器疾患、治療内容などによって修飾されて変化していく可能性が高く、患者の長期的な転帰を予測するためには、冠動脈画像に加えて、患者の背景因子を加味したAIアルゴリズムの構築が必要となると予測される点である。 このような観点から、2023年度からは以下の2つの課題について研究を進める予定である。第一の課題は、完成したAIプログラムを転移学習の手法を用いて、他のモダリティで記録したOCT画像の自動診断法を確立することである。転移学習では、同分野で学習されたモデルを活用していくことになるため、新しいイメージング機器で得られる比較的少ない量のデータでも高い精度を短時間で実現可能性がある。 第二の課題は、作成したAIプログラムに、患者の臨床背景を示す指標(性別、年齢、腎機能、脂質プロフィールなど)を統合的に解析させて、臨床転帰をより高い精度で予測できるアルゴリズムを作成することを目的として実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度には大阪大学において100万円、川崎医科大学において80万円を計画していた。このうち大阪大学では予定通りに使用ができた。一方川崎医科大学での研究においては申請者による直接の作業が主であり、当初「人件費」で計上していた実験補助者の雇用を行わなかったため80万円の繰越金が出てしまった。2023年度には作業量が多くなるため、繰り越した金額との合計で雇用を行い研究を推進する。
|