研究課題/領域番号 |
22K08231
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
藤澤 朋幸 浜松医科大学, 医学部, 助教 (20402357)
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研究分担者 |
鈴木 哲朗 浜松医科大学, 医学部, 教授 (00250184)
須田 隆文 浜松医科大学, 医学部, 教授 (30291397)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 線毛輸送系 / 肥満 / ウイルス性呼吸器感染症 |
研究実績の概要 |
本研究は,肥満によるウイルス性呼吸器感染症の重症化機序に関して,「肥満により惹起される気道の線毛機能障害」に焦点をあてその機序を解明し,線毛機能障害に対する効果的な制御法の開発へ向けた基礎的基盤の構築を目指すものである. 高脂肪食を14週間摂取した肥満モデルマウスを作成し,気管の組織培養と線毛運動のイメージング解析を用いて,線毛輸送能と線毛打頻度(ciliary beat frequency: CBF)を測定し,コントロールマウスと比較解析した.肥満マウスではコントロールと比較して,線毛輸送能・CBFは有意に低下していた.次に,ウイルス感染時における線毛機能の変化を解析した.コントロールマウスでは,インフルエンザAウイルス(IAV)感染により線毛輸送能・CBFはいずれも増加した一方で,肥満マウスではIAV感染による流体移動速度・CBFの増加は消失した.同様に,SARS-CoV2感染による流体移動速度・CBFの増加は,肥満マウスでは消失した.以上より,肥満マウスでは,気道上皮の線毛機能が障害され,さらに,ウイルス感染時における線毛機能促進作用が減弱していることが明らかとなった. 次に,肥満における線毛機能障害のメカニズムにつき解析した.細胞外ATPは線毛運動を促進することが知られている.そこで,コントロールマウス,肥満マウスにおいて,IAV感染時の気管組織培養上清中のATP濃度を測定した.コントロールマウスではIAV感染60分後に培養上清中ATP濃度は有意に増加したが,肥満マウスではATP濃度の増加はみられなかった.一方,コントロールマウス,肥満マウスのいずれにおいても,培養液中へのATP添加により,線毛輸送能・CBFは増加した.以上より,肥満マウスでは,気道上皮の細胞ATP放出が障害されるため,IAV感染による線毛機能促進作用が消失することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満モデルマウスを作成して,気管組織培養系と線毛機能の動的定量解析法を用いて,肥満による線毛機能障害を解析した.肥満マウスでは,コントロールマウスと比較して,気管上皮における流体移動速度とCBFが有意に低下し,肥満マウスにおける線毛機能障害が実証された. また,ウイルス感染時にみられる線毛機能の促進作用に対する肥満の影響を解析した.コントロールマウスでは、IAV感染により流体移動速度とCBFは増加するが,肥満マウスではIAV感染による流体移動速度とCBFの増加は消失した.SARS-CoV-2感染がIAVと同様に気道上皮の線毛機能を促進するか否か検証するため,ヒトACE2を発現したトランスジェニックマウス(K18-hACE2マウス)の気管組織を用いてSARS-CoV-2含有培養液で組織培養し,気道上皮にSARS-CoV-2を感染させ,線毛輸送能・線毛活性を定量評価した.その結果,SARS-CoV-2感染により,気管上皮の流体移動速度とCBFは有意に増加した.一方,肥満マウスではSARS-CoV2感染による流体移動速度・CBFの増加は消失した 肥満における線毛機能障害のメカニズムの解析として,細胞外ATPは線毛運動を促進することが知られているためそれに着目した.コントロールマウス,肥満マウスにおいて,IAV感染時の気管組織培養上清中のATP濃度を測定した.コントロールマウスではIAV感染60分後に培養上清中ATP濃度は有意に増加したが,肥満マウスではATP濃度の増加はみられなかった.これらの結果より,肥満マウスではIAV感染時の細胞外ATP放出が障害されるため,線毛機能促進作用が減弱することが示唆された. 今後は,肥満が線毛関連遺伝子の発現に与える影響を同定すべく,肥満マウスとコントロールマウスの気道上皮における遺伝子発現につきRNAseqを用いて網羅的に解析する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
肥満は,ウイルス性呼吸器感染症の重症化をもたらす重大なリスク因子である.2023年度までの研究により,肥満マウスでは,線毛機能が低下し,またIAV感染時ならびにSARS-CoV2感染時における線毛機能促進作用が消失することを実証した.これは,肥満では気道上皮の線毛機能が障害され,それによりウイルス感染時におけるウイルスの体外排泄が遅延して感染症の重症化を惹起することを示した結果と考えられる. 現在、肥満による線毛機能障害の機序の解析をすすめている.我々は、IAV感染による線毛機能の促進機序として、IAV感染に伴う細胞外ATP放出の増加とATP-P2受容体経路が関与することを報告した(Respir Res 2020).そこで,肥満におけるIAV感染による線毛機能促進作用の減弱機序につき,ウイルス感染時の細胞外ATP放出の障害つき検証した.具体的には,コントロールマウスならびに肥満マウスの気管組織培養を用いて、IAV感染時における培養上清中ATP濃度を測定して比較解析した.その結果,コントロールマウスではIAV感染60分後に培養上清中ATP濃度は有意に増加した一方で,肥満マウスでは培養上清中ATP濃度の増加はみられなかった.これらの結果より,肥満マウスではIAV感染時における気道上皮のATP放出が障害されるため,IAV感染による線毛機能促進作用が減弱することが示唆された. 今後は,コントロールマウスと肥満マウスの気道上皮における繊毛関連遺伝子群の発現の相違につき、RNAseqを用いた網羅的解析を予定している.RNAseqで肥満とコントローで発現に差異のある線毛関連遺伝子群が同定されれば、real-time PCRを用いてそれらのmRNA発現の相違につき検証する. これらの研究成果は,肥満におけるウイルス性呼吸器感染症の重症化機序の解明に繋がることが期待される.
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、比較的実験が順調に進み、当初の予定と比較してマウス飼育費等を抑えることができ、そのため次年度使用額が生じた。2024年度は,RNAseqを用いた網羅的遺伝子発現解析を予定しており、2023年度助成金も併せて活用して、研究を進める予定である。
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