研究課題
既存の肺組織バンクより、凍結切片の切り出しを行い、各種炎症細胞の肺胞、末梢気道への浸潤を定量した。結果、COPD症例の末梢気道とCOPDには至らないが肺気腫や拡散能の低下などの形態機能異常を認める非COPD症例の末梢気道の両者にて、非喫煙コントロールに比べ、有意なMBP陽性細胞の増加を認めた。IL17環境に認められる好中球浸潤の程度には差を認めなかった。さらに、該当症例の術前の胸部CTより、小葉中心性肺気腫(CLE)、傍隔壁性肺気腫(PSE)を定量し、末梢気道における好酸球性炎症や好中球性炎症との関連を現在検討している。好酸球の末梢気道浸潤と同部位のコラーゲン沈着、気道壁肥厚との関連がCLEを有するCOPDで認められた。一方、その関連はPSE主体のCOPDでは乏しくなる傾向にあった。また、PSE患者における末梢血バイオマーカーとPSE病変進展因子を臨床研究・CT画像解析において探索する、という当初の目標にむけて、京都大学呼吸器内科外来において前向きに末梢血より分離した血清と胸部CT画像を集積中である。さらに、胸部CTを用いて、視覚的にCLEとPSEを半定量し、5年間の肺機能の経年変化との関連を検討したところ、CLEはPSEに比べて、有意に大きな長期的肺拡散能の経年低下と関連することを見出し、アジア太平洋呼吸器学会(APSR2022年 ソウル)にて学会報告し、海外誌への報告を行った(Chest 2023:S0012-3692(23)00166-6)。
2: おおむね順調に進展している
ヒト肺解析結果より、IL17や好中球性炎症よりも、好酸球性炎症の関与が大きいのではないか、という結果がえられたことから、当初予定していたIL-17受容体ノックアウトマウスに対する喫煙暴露実験については現在中断している。しかし、ヒト肺組織を用いた解析と肺気腫のより高精度の解析、バイオマーカー同定にむけた臨床研究、画像解析については論文発表などにつなげることができており、総合的には進捗状況はおおむね順調と考えている。
PSE関連の末梢血バイオマーカーと病変進展因子の探索のため、さらに症例を集積し、解析を開始する。より有効なPSE, CLEの画像解析手法をトポロジーなどの数理的アプローチや深層学習を用いて確立することを試みる。当初予定していたL-17シグナルの関わる微小環境変容に加えて、好酸球性炎症と関連する微小環境が2型肺胞上皮機能や肺気腫フェノタイプに与える影響を胸部CT画像により形態変化が明確に定義されたヒト肺の組織を用いてさらに詳細に解析する。実験動物を用いた喫煙暴露実験での検証の準備を行う。
本年度実施予定であった動物実験を次年度に行う予定としたため、繰り越しとした。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Chest
巻: S0012-3692(23) ページ: 00166-6
10.1016/j.chest.2023.01.034