研究課題/領域番号 |
22K08273
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
河村 由紀 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 臨床連携研究室 室長 (10392391)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 気管支 / 肺胞 |
研究実績の概要 |
呼吸器は外界と接する臓器であり、感染や傷害のリスクに常時晒されている。呼吸器は気管(支)と肺の異なる組織より構成されているため、その組織維持・傷害再生は部位特異的に、基底細胞、クララ細胞、II型肺胞上皮細胞といった多様な幹細胞により担われている。我々はこれらの細胞に共通して発現し、細胞増殖抑制能を示す分子として、グルタチオンS-転移酵素ωクラスに属するGSTO2を見出した。本研究の目的は、これらの幹細胞機能維持におけるGSTO2の寄与とその分子メカニズムを明らかにすることである。初年度は、主として基底細胞より生じるとされている扁平上皮癌のヒト細胞株を用いた検討を行い、GSTO2強制発現がp38のリン酸化を介して細胞代謝ならびにミトコンドリア呼吸能を制御することを明らかにした。本年度は、主としてII型肺胞上皮細胞より生じるとされている腺癌のヒト細胞株を用いた検討を行った。GSTO2の強制発現により、p21、p53、p16等の細胞老化マーカーの発現ならびにIL-6、TNFα、IL-1βなどの細胞老化関連分泌形質因子の発現が減少したことから、GSTO2が細胞老化を抑制する機能を有している可能性が示された。細胞老化は細胞周期の停止や炎症反応の惹起を特徴とする現象であり、様々な疾患の発生と進行に寄与することが知られてる。がん組織においては、一部のがん細胞が細胞老化の形質を獲得しており、これらはsenescent tumor cells(STCs)として腫瘍の浸潤や転移に寄与すると考えられている。したがって、肺腺癌細胞におけるGSTO2発現消失はSTCsの出現と、その浸潤や転移に寄与する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は主にヒト肺腺癌細胞株を用いた検討により、肺に存在する多様な幹細胞・前駆細胞に共通して発現する分子の機能解析を行った。その成果として、幹細胞機能維持に重要な役割を果たすと考えられる細胞老化を抑制するという分子機能を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者がヒト肺に存在する多様な幹細胞・前駆細胞に共通して発現する分子として着目しているGSTO2は、細胞表面に発現が認められない分子である。当該分子を発現する細胞を分離・解析するため、初年度はIRESを用いたレポーターマウスを作製したが、当該分子の発現レベルが低く、抗体染色によってしか発現細胞が同定できなかった。そこで本年度は、IRESよりもレポーター遺伝子の発現が高くなるP2Aを用いたレポーターマウスを作製した。組織学的解析により肺における当該分子の発現を確認後、セルソーターを用いた細胞分離を試みる予定である。
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