研究課題
COPDには喘息とのオーバーラップ(ACO)があり、アレルギー性疾患の存在がCOPDの病態を修飾する可能性が明らかとなっている。過去の報告で気管支喘息の病態に深く関わっているとされる血小板活性化因子(Platelet Activaing Factor, PAF)受容体の発現が喫煙により誘導され、さらにPAF 受容体がCOPDの増悪に重要であることが示された。しかしこれまでにPAF自体がどのようにCOPDの病態に関わっているかは検討されていない。我々はPAFおよびその制御系がCOPDの発症や病態形成に重要な役割を演じているという仮説を立て、それを検証することを目的とした。将来的にPAF制御経路を標的とした薬物、遺伝子介入により、COPD発症や増悪の制御に関わる新たな治療法の開発を目指すことを目的とした。PAFはマクロファージから発現するリゾホスファチジルコリンアシル転移酵素(Lysophosphatidylcholine Acyltransferase 2:LPCAT2)により制御される。喫煙刺激によりLPCAT2はリン酸化され、肺組織におけるPAF濃度が上昇することが示された。PAFはマクロファージへ作用し、Monocyte chemotactic protein-1 (MCP-1)の産生を介して骨髄由来のマクロファージを肺内に誘導することが示された。LPCAT2のノックアウトマウスに対し6か月間の喫煙曝露を行い肺気腫を誘導したところ、遺伝子改変マウスでは肺気腫が軽減していた。これらの結果からLPCAT2に制御されるPAFが骨髄由来マクロファージの誘導を介して肺気腫形成に関与していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
COPDの病態形成におけるPAFの役割を検証することを目的として研究を行った。PAF自体は非常に不安定な物質であり測定が困難であることから、過去の検討ではPAF受容体に焦点を当てた検討が多く報告されている。我々はPAF合成酵素であるLPCAT2に着目し、LPCAT2に制御されるPAFによる肺局所の炎症および肺気腫形成における機能解析を行った。マウスに対し喫煙曝露を行い、肺組織中の蛋白濃度を測定したところ、LPCAT2およびPAFの蛋白濃度の上昇を認めた。PAFは肺胞マクロファージ上に発現を認め、マクロファージ系培養細胞をタバコ抽出液で刺激したところ、LPCAT2はp38MAPK依存的にリン酸化され、その発現を増加させることを示した。PAFによりマクロファージを刺激したところMCP-1の発現が誘導され、骨髄由来のマクロファージを肺内に誘導することが示された。骨髄由来マクロファージに対しタバコ抽出液による刺激を行ったところ、肺気腫形成における肺胞破壊に重要な役割を担っているMatrix metalloproteinase 12(MMP-12)の有意な増加を認めた。LPCAT2ノックアウトマウスに対し喫煙曝露を行ったところ、気管支肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ分画は対照群と比較して有意に低下していた。6か月間の喫煙曝露により肺気腫を誘導したところ、肺気腫の定量的なマーカーである平均肺胞間距離、肺胞破壊指数はいずれも遺伝子改変マウスで有意に低値であり、肺気腫が軽減していることが示された。そして呼吸機能検査では肺気腫による肺過膨張を反映する機能的残気量、総肺気量はいずれも喫煙曝露により増加していたが、遺伝子改変マウスでは有意に低下していた。
これまでにPAFはその不安定さから直接測定を行ったり、機能解析をしたりすることが困難であったため、過去の研究ではPAF受容体を対象とした検討が行われていた。我々はPAF合成酵素であるLPCAT2に着目し、COPDにおける病態形成にLPCAT2を介したPAFがどのように関わっているか、その機能解析を試みた。結果LPCAT2およびPAFの作用により肺胞マクロファージでの炎症性サイトカインの発現が制御され、骨髄からのマクロファージの遊走により肺局所での炎症や肺組織の破壊が亢進することで、COPDの主要な病態である肺気腫が形成に関わっていることが示された。今後肺胞に常在するマクロファージ(Resident macrophage)と骨髄から誘導されるマクロファージ(Monocyte-derived macrophage)にどのような機能の差異があるのかを検討する。具体的にはLPCAT2ノックアウトマウスに対し、正常マウスの骨髄を移植することで、Resident macrophageはLPCAT2ノックアウト、Monocyte-derived macrophageは正常遺伝子のキメラ体を作成する。そのマウスに対し喫煙曝露による肺気腫を誘導することで、両マクロファージの機能解析を行う。さらにはこれらの動物実験で明らかにされたLPCAT2およびPAFを介した肺気腫の形成について、ヒトを対象とした検討を試みる。具体的には肺癌で手術を行った組織標本を対象に、非喫煙者、喫煙者で呼吸機能が正常、喫煙者でCOPDの患者の3群を抽出し、それらの組織標本をLPCAT2で免疫染色する。喫煙の有無やCOPDの有無によりLPCAT2の発現の相違を観察することで、人体におけるLPCAT2およびPAFがどのように肺気腫形成およびCOPDの発症に関与するかが明らかにできることが期待できる。
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