研究課題
・悪性胸膜中皮腫はアスベスト曝露に関連して発症し、発病までの期間は約20-30年と長期に渡る。2000年から2039年までの40年間で、中皮腫患者の死亡者数は10万人を超えると予測されている。多くは進行した状態で診断され、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が行われているが、その効果は極めて限定的である。悪性中皮腫では、癌抑制遺伝子であるp16INK4a ,NF2 , BAP1に不活化変異が高頻度に検出される。本研究では、胸膜中皮細胞を用いて癌抑制遺伝子ノックアウト株を作成し、中皮腫の増殖・浸潤・転移に関わる細胞内分子および阻害化合物を同定し、新規診断マーカーや新規治療薬の候補分子を探索することを目的とした。・我々は、NF2ノックアウト株で高発現する遺伝子としてFGF受容体2を、NF2/p16 ダブルノックアウト細胞株でCD高い発現する遺伝子としてCD24遺伝子を見出した。抗体を用いた組織アレイ解析では、FGF受容体2とCD24が新たな診断バイオマーカーの候補であることが示された。・今回、ゲノム編集技術を利用して、胸膜中皮細胞株でBAP1ノックアウト株を樹立した。コロニーアッセイの結果、BAP1ノックアウト株でコロニー形成能の有意な上昇を認めた。・さらに、我々はBAP1ノックアウト株で高発現する遺伝子群と低発現する遺伝子群を同定した。高発現遺伝子として、カルモジュリンキナーゼCAMK2Dが抽出された。・MTTアッセイによる細胞増殖阻害を指標として、400個小分子化合物ライブラリーを用いたBAP1ノックアウト株の予備的なスクリーニング実験を実施したところ、カルモジュリンキナーゼ阻害剤が抽出されて来た。この結果は、カルモジュリンキナーゼ阻害剤が、BAP1欠失胸膜中皮種に対する有望な阻害剤の候補であることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
・cDNAマイクロアレイ網羅的発現解析とリアルタイムPCR解析によって、BAP1ノックアウト細胞株で高発現する遺伝子としてカルモジュリンキナーゼCAMK2Dを同定し、CAMK2Dが診断バイオマーカーのための有望な候補であることを示すことができた。・さらに、BAP1ノックアウト細胞株を用いて400個小分子化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、カルモジュリンキナーゼ阻害剤KN-92が特異的な細胞増殖抑制効果を示すことを見出すことができた。KN-92は、悪性胸膜中皮腫に対する分子標的薬の有望な候補になると考えられた。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると自己評価した。
・愛知県がんセンター、近畿医科大学、兵庫医科大学の研究チームと連携し、中皮腫患者検体を用いたFGF受容体2 およびCD24による免疫組織染色の規模を拡大して実施する。中皮腫特異的な染色が確認できれば、次に患者血清や胸水を用いたELISA法及びCLEIA 法を確立し、新たな早期診断の開発を目指す。・400個の小分子化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、BAP1ノックアウト細胞株で腫瘍特異的な細胞増殖抑制効果を示すカルモジュリンキナーゼ阻害剤KN-92を発見した。がん細胞では様々なキナーゼ活性が亢進しており、キナーゼ活性の亢進ががん細胞の増殖に関与していることが明らかになってる。今回発見したカルモジュリンキナーゼ阻害剤KN-92による細胞増殖抑制効果の分子基盤を明らかにしていく。また、他のカルモジュリンキナーゼ阻害剤でも効果を検討する。・今後さらに、新たな腫瘍特異的な細胞増殖抑制効果を示す化合物を探索するため、東京大学の創薬機構に所蔵される小分子化合物ライブリーの取得を申請し、約1~2万種類の化合物からシーズ探索を計画する。・中皮腫の病態を細胞レベルから個体レベルで解析するため、樹立した細胞株を種々の免疫不全マウスに移植し、マウス造腫瘍能について検討する。癌抑制遺伝子ノックアウト株の移植に成功すれば、細胞レベルで確認された生物学的特性を個体レベルで検証することが可能となる。また、細胞レベルでスクリーニングされた化合物の効果を個体レベルで検討することも可能となる。・現在までの進捗状況に記載があるとおり、使用した経費内で研究計画はおおむね順調に達成された。
・本年度計画どおり、予算内で、ゲノム編集技術を利用して、胸膜中皮細胞株でBAP1ノックアウト株を樹立することができた。また、BAP1ノックアウト細胞株で高発現する遺伝子としてカルモジュリンキナーゼCAMK2Dを同定し、CAMK2Dが診断バイオマーカーのための有望な候補であることを示すことができた。さらに、BAP1ノックアウト細胞株を用いて400個小分子化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、カルモジュリンキナーゼ阻害剤KN-92が特異的な細胞増殖抑制効果を示すことを見出すことができた。KN-92は、悪性胸膜中皮腫に対する分子標的薬の有望な候補になると考えられた。・来年度、新たな腫瘍特異的な細胞増殖抑制効果を示す化合物を探索するため、東京大学の創薬機構に所蔵される小分子化合物ライブリーの取得を申請し、約1~2万種類の化合物からシーズ探索を計画している。
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FEBS Lett
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