研究課題/領域番号 |
22K08297
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研究機関 | 公益財団法人結核予防会 結核研究所 |
研究代表者 |
森本 耕三 公益財団法人結核予防会 結核研究所, 抗酸菌部 細菌科, 主任研究員 (40511879)
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研究分担者 |
慶長 直人 公益財団法人結核予防会 結核研究所, 副所長, 副所長 (80332386)
土方 美奈子 公益財団法人結核予防会 結核研究所, 生体防御部, 部長 (90332387)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 原発性線毛機能不全症候群 |
研究実績の概要 |
原発性線毛機能不全症候群 (PCD: primary ciliary dyskinesia) は運動性線毛の構造・機能に関わる遺伝子の病原性変異による遺伝性疾患で、臨床上、副鼻腔気管支症候群の特徴を呈する。我々はこれまで鼻腔一酸化窒素 (nNO) 濃度測定・線毛構造の電子顕微鏡検査 (EM)・ターゲットリシークエンスによる既知のPCD原因遺伝子のエクソン領域の変異解析を併せた診断体制を構築してきた。しかし、原因変異の同定ができない症例が少なからず存在するため、遺伝子エクソン領域のターゲットリシークエンスのみでは発見できない、大規模欠失や深部イントロン領域の病原性変異などを同定する方法の新規確立が緊喫の課題である。本研究ではスクリーニング・アルゴリズムを向上させ、鼻粘膜細胞の生検組織を用いた網羅的RNA発現解析(RNA-seq)を用いてスプライシング異常などを引き起こす新規原因遺伝子変異を検出する効率的な方法を開発し、さらに高精度のPCD原因遺伝子スクリーニング系の構築を目指す。 今年度は、専用のキュレットで採取したEM検査用の鼻粘膜上皮生検検体から全RNAを抽出し、エクソン領域の配列をハイブリダイゼーションにより濃縮するtotal RNAライブラリー作成方法の条件検討を行ない、次世代シークエンサーを用いてシークエンスを行なった。最新のスプライシング異常検出ツールであるFRASERを用いてmRNA アイソフォームの遺伝的異常を明らかにすることができた。今後さらに解析検体を増やして原因となる変異の探索を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々がこれまでに見出したDRC1エクソン1-4の欠失 (Morimoto K, et al. Mol Genet Genomic Med. 2019, Keicho N, et al. Mol Genet Genomic Med. 2020)は、アジア人集団に特異的な病的変異であり、日本人とおそらく韓国人で頻度が高いものと推定されており、特に日本人ではこれまでに原因遺伝子が判明したPCDの約半数を占める。鼻腔一酸化窒素 (nNO) 濃度が低値であるPCD疑い患者の中で、DRC1エクソン1-4の欠失がPCRによって検出されず、ターゲットリシークエンスでも既知のPCD原因遺伝子のエクソン領域に原因変異が検出されなかった症例を対象とした。鼻粘膜上皮生検検体から抽出した全RNA total RNA検体のライブラリー作成方法として、Illumina RNA Prep with Enrichment(イルミナ)にIllumina Exome Panel(イルミナ)を組み合わせることで、エクソン領域にマッピングされるリードを濃縮するライブラリー作成を行い、次世代シークエンサー(NextSeq 500, イルミナ)によってシークエンス解析を行う方法を導入した。高品質なRNAから比較的断片化の進んだ検体まで、全RNA100 ngを解析に用いたが、いずれの材料からも十分な線毛関連遺伝子の発現データが得られ、微量の生検検体からのライブラリー作成方法として、本法の効率が十分に良いことが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた鼻腔一酸化窒素 (nNO) 濃度測定値・線毛構造の電子顕微鏡検査(EM)・遺伝子解析結果・臨床データ等あわせた検討を行い、スクリーニング・アルゴリズムの改善を試みる。本法では、統計手法を用いて異常を検出していくため、十分なサンプル数が必要である。したがって、原因変異の明らかになっていない症例の鼻粘膜生検組織より、さらに多くの検体のtotal RNAを実施し、効率良く病原性変異を同定する必要がある。このためには、ライブラリー作成と次世代シークエンサーによるシークエンスの低コスト化が必要である。Illumina Exome Panel(イルミナ)のマルチプレックス化と、次世代シークエンサー1ランあたりの検体数、サイクル数の最適化を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
鼻粘膜生検組織からの全RNA抽出時に、条件検討を行うために十分な量のRNAが回収できない検体があったため、予定より1回シークエンスの回数が減った。RNAが十分回収できた症例のみを用いて今年度は条件検討を行い、ライブラリー作成方法が確定できたので、次年度に、ごく少量のRNAしか得られなかった検体もライブラリー作成を行い、シークエンスの回数を増やす。
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